ボストンマラソン3位の大迫、快走の裏に米国“虎の穴”極秘プロジェクト
丸亀ハーフは微妙な結果に終わったものの、水面下では初マラソンの準備が着々と進んでいたようだ。オレゴンプロジェクトはファラーが五輪・世界選手権で4大会連続長距離2冠を達成するなど、トラックでは輝かしい実績を残してきた一方で、マラソンの実績は乏しかった。しかし、昨年のリオ五輪でラップが銅メダルを獲得して、今回のボストンではラップが2位、大迫が3位に入った。世界のメジャーレースで、東アフリカ勢 以外の選手ふたりが上位に食い込むのは近年なかったことだ。そのなかにSuguru Osakoという日本人がいることは、世界的に見てもトピックスになるだろう。 大迫は今夏開催されるロンドン世界選手権の参加標準記録(5000m/13分22秒60、1万m/27分45秒00)をまだ突破していない。マラソンのダメージが残ると、トラックへの移行がうまく進まずに、ロンドン世界選手権を逃すリスクもある。それでも、今回のマラソン挑戦は東京五輪に向けて大きな1歩になったはずだ。 大迫はボストンで3位の賞金4万ドル(約436万円)をゲットしたことになる。プロ選手としての報酬は、スポーツメーカー(ナイキ)との契約金と出場レースの賞金がメインだ。日本の実業団のように、走れなくても給料が出て、引退しても会社に残れるという状況とはまったく異なる。しかも、チームメイトは世界のトップランナーだ。ある意味、過酷ともいえる状況のなかで、大迫は戦ってきた。競技へのモチベーションと覚悟 は、日本でしか評価されない箱根駅伝でヒーローを気取り、大学卒業後もたいした活躍をしていないのにチヤホヤされている選手とはまったく違う。大迫はメンタリティも世界と互角に戦えるだけのものを持っているのだ。 昨年の日本選手権では、「練習内容からして、彼ら(ファラーやラップ)とそこまで大きな差はありません。きついメニューでもつけることがあります」と大迫は話していたが、世界トップクラスの選手と競い合うなかで、自信をつけていった部分も大きいだろう。実際、ボストンでは終盤までラップと競り合った。もちろんマラソンを1回好走しただけで、簡単に世界大会のメダルに届くわけはない。しかし、大迫には5000mを13分08秒40で走るスピードと、25歳という若さがある。 5000mの自己ベストをロンドン世界選手権の男子マラソン代表と比べると、最速タイム(13分42秒72)を持つ井上大仁(MHPS)より大迫は30秒以上も速い。世界大会特有のペースチェンジに十分対応できるだけのスピードがあり、ボストンでは暑さへの適応力も見せた。これからマラソンの経験を積み重ねていけば、東京五輪でのメダル獲得も夢ではない。 「大迫、ボストンマラソン走ったってよ」。自らの走りで示したツイートは、佐藤悠基(日清食品グループ)、設楽悠太(Honda)、村山謙太・紘太(旭化成)、神野大地(コニカミノルタ)ら国内のライバルたちのハートをズキュンと射抜いたことだろう。ボストンの快走劇が、日本マラソン界を大きく変えるかもしれない。 (文責・酒井政人/スポーツライター)