ボストンマラソン3位の大迫、快走の裏に米国“虎の穴”極秘プロジェクト
振り返ると、大迫ほど貪欲に競技に取り組んできたランナーはいない。早大では1年時と2年時に箱根駅伝の1区で区間賞を獲得すると、3年時の日本選手権1万mではラスト勝負で佐藤悠基(日清食品グループ)に敗北。僅か0.38差でオリンピック出場を逃した。この頃から、「もっと速くなるために、自分の疑問に答えてくれるコーチにつきたい」と強く願うようになる。そして、ナイキ本社のある米国オレゴン州を拠点にする「オレゴンプロジェクト」を訪れた。 オレゴンプロジェクトは世界大会でアフリカ系選手と対等に戦えるアメリカ人選手の育成を目的に設立した長距離チーム。ニューヨークシティマラソン3連覇の実績を誇るアルベルト・サラザールをヘッドコーチに迎えて2001年にスタートした特殊プロジェクトだ。ロンドン五輪の男子1万mではモハメド・ファラー(英国)とゲーレン・ラップ(米国)がワン・ツーを飾るなどトラック種目を席巻している。 当時、“教え子”だった大迫とオレゴンプロジェクトを視察した住友電工・渡辺康幸監督(当時は早大駅伝監督)は、「サラザールの指導は想像を絶するものでした。だからこそ、米国の白人ランナーがケニア、エチオピアを倒して、世界大会でメダルを獲得しているんです。日本の指導は100歩くらい遅れています。根性論ではないですけど、昔、自分はこんな練習をしたという話が多い。もっと理論的に進めなければいけません」と 、そのトレーニングに衝撃を受けていた。 オレゴンプロジェクトには、スプリントコーチ、理学療法士、フィジカルトレーナーなど各ジャンルのスペシャリストがいて、マン・ツー・マンに近いかたちで指導している。具体的なメニューに関しては「秘密主義」のため、大迫に聞いても答えてくれないが、日本とは異なり、200m以下のスプリント的な練習が多いという。 大学4年時には、モスクワ世界選手権の男子1万mに出場した大迫はさらなるレベルアップを目指して渡米。11~12月にはオレゴンプロジェクトで約4週間のトレーニングを行っている。「箱根前の大切な時期に、キャプテンがチームを離れるなんて」と非難するOBもいたというが、大迫は信念を貫く強さがあった。最後の箱根は1区で区間5位に終わったものの、その選択が正しかったことを後に証明する。 大学卒業後は拠点を米国に移して、オレゴンプロジェクトに正式加入。1年で日清食品グループを退社すると、2年前からは「プロ選手」として活動中だ。2015年7月には5000mで13分08秒40の日本記録を樹立。昨季は圧倒的なスパートで日本選手権の1万mと5000mを制すと、リオ五輪では1万mで17位(27分51秒94)に入っている。