年金の支給額が前回に比べて7502円アップ…それでも家賃の支払いが追いつかない大藪春彦賞作家が「向かう先」【「鶯谷」第二十八話#1】
「黒赤松」「白赤松」
デビューした年、オール読物で『注目の新人作家』というグラビア特集があった。 半グレの除染現場から逃げ出した私は身バレを恐れ、浅草のドン・キホーテで買い求めた1,000円のサングラスを掛けて撮影に臨んだ。 場所は浅草寺の喫煙所で、お調子者の私は、へし折れたシケモクを咥えて写真に納まったのだ。 そのグラビアのイメージがひとり歩きし、その後の版元各社の写真撮影のおりにも、 「もっと無頼派らしくして下さい」 と、注文されるようになった。 無頼派じみたバイオレンス小説ばかりを書いているわけではない。 ハートウォーミングな小説も書いている。 後者は、読者諸氏をガッカリさせるか、赤松らしくないと評される。 またコアな読者諸氏らに至っては「黒赤松」「白赤松」という分類まで出来上がっている始末だ。 仕事場の請求代行会社から請求書が送られてきた。 電話した。 「遅れ遅れになっていますけど、いずれ一括で遅れ分をお支払いしますので……」 恐る恐る申し出た。 「そういうことでしたら、請求書の発送は止めておきますね。余裕ができたときにお支払いください」 その言葉に胸をなで下ろした。 だから6月分の年金でも、仕事場の家賃は支払っていない。 さてそうなると、いくぶんかのまとまった金が手元に残った。 もちろん、作家はその金を握りしめて、鶯谷へと向かう。後編記事【些細な計算ミスでいきなり窮地に陥った大藪春彦賞作家を救った「はるの」ちゃんの機転】に続く。 赤松利市氏の最新刊『あじろ』が好評発売中です。
赤松 利市(作家)
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