やり抜いた先には、誰も知らない景色が広がっているんだろう「ディア・ファミリー」 作家デビューした小田実里が見た
無限に広がる可能性
いろんな仕事をAIが担ってくれる時代。画像を作ることも、文章を書くことも。Chat-GPTが書く文章を見ながら、その正確さとスピードに、私が書かなくてもいいのでは、と時々心が折れそうにもなる。私が書かなくても、そのうちAIが人に寄り添う文章を書いてくれるのではないかと。私が書く意味はどこにあるのだろうかと。知らず知らずのうちに意味を求めている。 娘を助けられないと絶望した時に、自分のこれまでの努力が無駄だったと諦めるか、対象を広げて他に同じような人はいないか、自分がこれまで積み上げてきたものからできることはないだろうかと視座を変えるのか。面倒臭いと思えばそこまでで、何か方法が絶対にあると思えば可能性が無限に広がる。
またこの映画に戻って来よう
この映画は実話をもとにして作られており、登場人物筒井(映画では坪井)宣政も心臓疾患で苦しむたくさんの人を救ったIABPバルーンカテーテルも実在する。筒井さんは、2018年に、医療産業に新たに参入する企業を応援するべく筒井宣政基金を設立したのだそう。筒井さんの「救いたい」という気持ちが、バルーンカテーテルの発明にとどまっていないこと。救う対象をさらに広げていること。映画を見て、筒井さんについてもっと知りたくなっている自分がいることに気づく。アメリカでも、中国でもない、偉大な日本人のお話に親近感が湧いてくる。 やっていることに何の意味がなくても、やり抜いた先には、誰も知らない景色が広がっているんだろう。この映画を見ているとめんどくさいと思うことをどんどんやってみようという気持ちになれる。暮らしが「だるっ」に集約され始めたら、またこの映画に戻って来よう。
脚本家 小田実里