『劇場版 忍たま』大人向けに”大胆転換”も好調発進のワケ 13年ぶりの劇場版、他作品のヒットも影響?
映画『忍たま』の場合は、「土井先生」と「きり丸」の絆に焦点を当てたことで、テレビ本編とは違う角度から作品の魅力を引き出すことに成功したのである。 シリーズ作品やリメイク作品でしばしば用いられるこの手法だが、近年大ヒットしたアニメ映画も例外ではない。 『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)が、あえて映画では主人公をシフトして物語を再構築したことや、『ONE PIECE FILM RED』(2022年)が主人公の過去と絡めたオリジナルキャラクターを登場させたことも同様だ。
原作のストーリーラインから外れずに「忠実な再現度」を厳しく求められる傾向のテレビアニメに対し、比較的自由度の高い企画も受け入れられやすいようにも見えるアニメ映画。今回『忍たま』が挑んだ“いつもと違う”アプローチも、そんなトレンドを押さえた内容になっている。 ■早くも前作興収超え、次に目指すのは 映画公開から3日間の興収2.9億の段階で、早くも前回の映画『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動! の段』の累計興収を超え、躍進を見せている映画『忍たま』。
今後の動員には、作品ファン層<アニメジャンルの視聴者層<それ以外の一般大衆層、どの層までリーチできるかがカギになるだろう。そのためには、知識のない観客でも物語に没入できるオープンな設計が重要である。 例えば、例年驚異的な記録を打ち出す『劇場版 名探偵コナン』シリーズは、この3層を満たしていると言える。 熱いコアファンを多数抱えるイメージの強い『コナン』だが、映画冒頭では必ず登場人物の紹介ナレーションを入れるなど、実は“ファン以外”の観客を想定した気配りにも抜け目がない。
また、昨年の人気作『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、国民的アニメから映画化し、PG12区分の“大人向け”ホラーミステリーをヒットさせた経緯から『忍たま』と共通する部分が多い作品だ。 本作は、前提知識をほぼ必要としないオリジナル脚本であることもプラスに働き、アニメ視聴者の枠を超えて口コミで売り上げを伸ばし、興収30億の実績を生んだ。 ■『忍たま』ファン以外のアニメ視聴者の動員がキモ 一方、映画『忍たま』の場合は、テレビアニメ視聴者である「子どもの目線」を意識しつつも、初見の観客として想定される「大人向け」を両立した作りとなっており、その立ち位置は少々複雑だ。
本作の原作が、元は『忍たま』視聴者向けの小説であることを踏まえると、まずは『忍たま』ファン以外のアニメ視聴者をどれだけ劇場に動員できるかが今後の別れ道になるだろう。 年始には応援上映の開催も予定されており、まだまだ盛り上がりを見せる映画『忍たま』プロジェクト。どこまで人気を伸ばすのか、今後を楽しみに見守りたい。
白川 穂先 :エンタメコラムニスト/文筆家