『シビル・ウォー アメリカ最後の日』ISOさん・奥浜レイラさんはどう観たか。対話なくジャッジする怖さ
De La SoulやSuicide、作品を彩る優れた選曲
ポリティカルな要素が注目される一方で、娯楽作品としても成立しているのが、この作品の魅力の一つとISOさんと奥浜さんは強調する。本作は戦争映画でもあるが、アメリカののどかな田舎風景が広がるロードムービーでもある。 緊迫感のあるシーンに軽妙な楽曲が流れるなど、音楽の演出も印象的だ。イギリスのバンド・Portisheadのジェフ・バーロウと、ビヨンセの楽曲なども手がける作曲家のベン・ソールズベリーが音楽を手がけていて、劇中音楽にはDe La SoulやSuicideなどの楽曲が採用されている。 ISO:音響がすごくて、本当に戦場に放り込まれてるような没入感がありますよね。音楽にもこだわりがある映画なので、そこに注目してみるのもまた面白いと思います。 奥浜:ホラーとは違う、味わったことない怖さがあって。戦場ではこんなに鈍い音がするんだとか、どこから銃で狙われているかわからない恐怖感とか、そんな場所に放り込まれたことがないはずなのに、実感として知っているような怖さがありました。音楽もよかったですね……。
元VOGUEモデルの戦場カメラマンが名前の由来に。作品に垣間見えるシスターフッド
主人公のリー・スミスは、数々の戦場を潜り抜けてきたベテランの戦場カメラマンだ。物語では、国の悲惨な状況を前にしたリーが心を乱していく姿や、彼女に憧れる新人カメラマンのジェシーがリーの意志を継いでいくような場面が描かれる。 ISO:アレックス・ガーランド監督の作品を観て毎回思うんですが、ジェンダーに関する意識がちょっと違うなと思います。アメリカのみならず、世界でいま戦争映画を撮るとなったとき、女性を主人公にする男性監督がどれだけいるだろうと。 『エクス・マキナ』(※編集部注:2017年に公開されたガーランド監督によるSFスリラー映画)からそれを感じていて、今回は主人公の名前がリー・スミスですが、その名前はリー・ミラーという実際の写真家が由来になっています。 もともと『VOGUE』のモデルで、写真家として第一次世界大戦中に報道写真を撮影していたんですが、女性の戦場カメラマンとしては第一人者的な人です。 「女性戦場カメラマンは男性社会と爆撃地帯という2つの戦線で戦わないといけない」という言葉を残している人で。そこで戦ってきた人の名前が元となった主人公が、若い女性カメラマンを育てていく……という構図が、すごくシスターフッド的でもあります。この作品の主題ではないものの、そういった描きかたもアレックス・ガーランドっぽくてすごく良いなと思いました。 奥浜:たしかに、最近は年長者から下の世代に手渡していくような「継承」のストーリーを少しずつ目にする機会が増えてきた気がします。 余談ですけど、『エア・ロック 海底緊急避難所』という映画がちょっと前に公開されていて……。 ISO:サメ映画ですか!? 奥浜:そう、隠れサメ映画で(笑)。飛行機が墜落してしまって、海にどんどん沈没していくなかで、乗り合わせた人たちがどう助け合っていけるかみたいなサバイバルなんですけど……。それも主題ではないものの、女性が下の世代の女性に才能や知恵をどう渡していくか、という一面も入っている作品だったんです。 ISO:そうだったんですね! 奥浜:女性同士がいがみ合うような話ってもう描かれ尽くして、「もういいよ」という感じになって、数年前にそういう物語は終わりを迎えたと思うんですけど、そこから新たな女性同士の関係が描かれていますよね。淡いシスターフッドみたいなものを当たり前に描いていくことが増えてきたような気がします。