相手のオウンゴールを生かす 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<6>
《日本は、世界情勢の激変に合わせてようやく防衛力の強化に向けて動き出した。さらに加速させる必要があるとの指摘もある》 日本人の防衛意識を大きく変えた功労者は、中国の習近平主席、北朝鮮の金正恩総書記、ロシアのプーチン大統領の3人でしょう。 中国は最高指導者だった鄧小平さんが1989年の天安門事件以降、「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれる、強くなるまでは力を見せず、余計な波風を立てないという外交姿勢を打ち出した。要は抜き足差し足忍び足で強くなってしまおうという話でした。なんでこれを評価する人がいるのでしょう。江沢民、胡錦濤両氏の時代はある程度、この遺訓を守っていた。胡主席の後半には中国は実力をつけ、人工島建設など南シナ海の軍事基地化を始め、牙をむきだした。習主席は就任早々から中華民族2049年の夢を打ち出した。大国主義で国民を満足させる必要があったのかもしれない。 日本は尖閣もあり、かねて警戒心を持っていた。米国は、中国との差が大きいと自信を持っていたこともあり、協調路線に望みをつないでいたのでしょう。オバマ大統領のミシェル夫人が2人の娘を連れて習主席の夫人の賓客として2014年3月に訪中したのはその例だ。その数カ月後に香港では、中国の弾圧に抗議し、民主化を求める雨傘革命が起こる。また15年には、習氏自ら「広大な太平洋は中国と米国の両国を受け入れる十分なスペースがある」などと米国に持ち掛けたりした。米国という国の本当のコワさを見誤っていたのだ。 《中国に対する認識が米国と日本で変わった。それは何をもたらしたのか》 トランプさんは初めから中国への対抗姿勢を鮮明にした。その後のバイデン大統領も、オバマさんではなく、実質的にはトランプさんの政策を引き継いでいる。習氏自ら目覚まし時計を鳴らし、トランプさん、バイデンさんが聞き取ったと言えるかもしれない。 プーチンさんは、ウクライナに侵攻し、国連安保理常任理事国自ら国連憲章を踏みにじっている。金総書記は毎年、何十発もミサイルを日本の方角に撃ってくる。 岸田文雄首相はこの状況下、防衛費をGDP比1%から2%に増大し、反撃能力を持つために米国製巡航ミサイルのトマホークを400基買うことを決断。さらに、日米の軍事的連携を円滑にするため、自衛隊の統合作戦司令部を東京に作ることを決めた。