日銀の令和5年度決算:利上げによる逆鞘の発生が近づき、日銀の財務の安定性が試される局面に
日銀が保有する国債の含み損は9.4兆円
日本銀行は5月29日に、令和5年度(2023年度)決算を公表した。3月19日のマイナス金利政策解除などの政策転換が、初めて反映された決算である。 経常利益は5兆858億円と前期から1兆3,256億円の大幅増加となった。保有する国債の利息収入が前期比+3,804億円と安定的に利益に貢献しているが、それに加えて、円安によって日本銀行が保有する外貨建て資産の評価益が増加したことで、外国為替収益が+7,859億円となった。さらに、ETF(信託財産指数連動型投資信託)の分配金などが1兆2,356億円の大幅増加となり、日本銀行の収益拡大に貢献した。 しかし、日本銀行がこの先、追加利上げを進めていく中では、この良好な収益環境が次第に悪化していくことは避けられない。2024年3月末での国債保有額は、簿価で589.6兆円、時価で580.2兆円だ。両者の差額の9.4兆円が、日本銀行が抱える国債の含み損である。含み損は、2023年3月末の0.2兆円から大幅に拡大した。 日本銀行が国債を売却しない限り、この評価損が実現損になることはない。実際、日本銀行がこの先、保有国債を削減する量的引き締め(QT)に転じる中でも、保有国債の削減は償還を通じて緩やかに行う可能性が高く、国債の売却損が生じる可能性は高くないだろう。 しかしながら、経済、物価、あるいは金融市場の動向次第では、償還前の国債を売却し、評価損を出す可能性はゼロとは言えない。この点から、日本銀行の自己資本13.6兆円の7割にも達する巨額の国債含み損の発生は、将来の日本銀行の財務の安定性への不安を生じさせ、通貨の信認低下、円安などにつながるリスクを秘めているだろう。
0.6%までの利上げで経常赤字に
他方、日本銀行が保有する国債の2023年度の平均利回りは+0.289%だった。運用資産全体の利回りは0.298%だ。日本銀行が民間金融機関から受け入れる日銀当座預金の付利金利(利息)は、3月に-0.1%から+0.1%へ引き上げられた。政策金利である無担保コールレート翌日物の目標は、それを上限とする0~+0.1%である。 2023年度の平均利回り+0.289%を前提とし、日本銀行が次の追加利上げで、付利金利及び政策金利を0.25%引き上げる場合には、付利金利と国債利回りとが逆転し、逆ザヤが生じる可能性が出てくる。 実際には、現時点で日本銀行が保有する国債の平均利回りは上昇しているため、0.25%の引き上げでは逆ザヤにならないとしても、さらなる追加利上げによって逆鞘は生じる可能性が高い。その分、現在は非常に良好な日本銀行の収益は減っていくのである。 さらに今年1月時点での筆者の試算によれば(コラム「FRBが利上げで過去最大の赤字:日銀は政策金利+0.6%で赤字、+2.8%で債務超過に」、2024年1月18日)、日本銀行が政策金利(付利金利)を+0.6%まで引き上げると、日本銀行は経常赤字に陥る。仮に政策金利(付利金利)を+2.8%まで引き上げると、日本銀行は債務超過に陥ることになる。