好きな分だけバケツで計量。漁港「浜売り」がなんとも羨ましい魚屋のない町
初冬の丹後半島は少し小雨混じりの日が続いていた。高速道を降り国道178号線を走る。しばらくすると海を挟み並行して日本三景の一つ、天橋立が見えてきた。 約3.6km続く砂州には数千本の松が生い茂る。右手にその松林を眺めしばらく走ると、湾に突き出た半島沿いに木造の建物がぎっしり建ち並ぶ風景が見えてくる。映画やドラマのロケ地としても有名になった京都府伊根町の舟屋群。水際ぎりぎりに建つ家屋はまるで海上に浮かんでいるような不思議な風景だ。
朝7時過ぎ、漁に出ていた船が港に戻ってくる。その頃合いをみて、一台、二台と漁港脇の駐車場に車が入ってくる。日本海の好漁場に恵まれた伊根町だが町には魚屋がない。伊根の人びとは漁港や漁師から直接魚を仕入れる。 しばらくすると両手にバケツやクーラーボックスをぶら下げ、地元の主婦から料理屋の店主、旅館の板前さんが集まりだした。種分けされた箱から好きな分をバケツに取り、計量して買って行く。「浜売り」と言われる伊根の朝の光景だ。
観光地によくある朝市ではなく、地元住民に還元する意味合いが大きい。主婦といえども目利きは確かのようだ。獲れたての魚がいつも手に入るというなんとも羨ましい環境である。 バケツいっぱいにイカを入れた女性に話を聞いてみると、塩漬けにして親戚や子供に送ってあげるのだという。伊根浦の通りを歩いていると軒先に天日干しされているイカをよく見かけた。伊根では「塩イカ」、「キリメイカ」と言われお正月の縁起物としてよく食べられるそうだ。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・倉谷清文さんの「フォト・ジャーナル<“舟屋と伝説の町” 京都府伊根町へ>倉谷清文第10回」の一部を抜粋しました。 (2017年11、12月撮影・文:倉谷清文)