「息子を救いたかった」生きる意味を見失った母親 息子からの“決意と感謝”の手紙に支えられ…生きた証と命の大切さを訴え続け
りつこさん 「あの大きな鉄筋コンクリート5階建てのマンションが倒れているわけですからそれはもう本当に地獄でした。えっ…と思って。それでもまだ私は大丈夫だと思って地上を歩きました。そうやって進むうちにコンクリート片が山のようになっていて瓦礫の上を歩かなければならず、どこをどういう風に歩いたかはもう覚えていません」 すると、2人の男性が近づいてきて「加藤さんですか?」と声をかけてきたといいます。「はい」と答えると「奥さん、お気を確かに」と両端に来て両腕を取ってくれました。 りつこさん 「私はその時『気を確かにってどういうこと?』と思ったのですが、そこでに初めて、ダメだったのか…というのが分かりました」 その瞬間、両足から崩れ落ち、両腕を取ってくれた2人に抱きかかえられるようにしてその場を後にしたといいます。 貴光さんが暮らしていたマンションは地震で倒壊…。2階にいた貴光さんは建物の下敷きになり帰らぬ人となりました。帰省していた貴光さんから将来の夢の話を聞いたり一緒に初詣に行ったりと、楽しく過ごした正月のわずか2週間後のことでした。りつこさんは、この日から29年間ずっと、初詣に行くことができません。 りつこさん 「『お母さんも体に気を付けてね』と言って歩いてコンコースに消えていったあの後ろ姿が最後でした。手を触ったらのけぞるように冷たかった。あの子の手はこんな冷たい手じゃなかった、私たちはいつも別れるときに握手をするんです。別れ際に握手した手の温もりが全然消えなかったもんだから、この手の冷たさはこの子のもんじゃないって」 さらに震災から28年後、りつこさんは貴光さんが倒壊したマンションのがれきの下で、最後まで助けを求めていたことを知ったといいます。貴光さんの上の階に住む住人が、震災当日の午前9時過ぎまで下の方からドンドンとがれきを叩く音を聞いていました。 りつこさん 「上の階の住人もそれに答えるように『助けに行くから』『救助がくるからもう少し頑張れ』と声をかけたそうです。あの子が、あんなに長くしんどい思いをしていたんだなと思うと、やりきれなくてしんどかったです。本当に頑張ったんだな、最後まで生きようとしてたんだなと」
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