新日本酒紀行「多賀治」
● 挑戦者5代目の名を冠した、豊かなうま味と酸味が広がる生酒 国産ジーンズ発祥の地、倉敷市児島の由加山蓮台寺の参道に立つ十八盛酒造は、1785年創業の老舗蔵。杜氏を務める8代目の石合敬三さんが、立ち上げたブランドが「多賀治」だ。新しいことに挑戦し続けた5代目の名を冠した酒で、岡山県産米だけで醸す無濾過生原酒の直汲(じかぐ)みだ。 【写真】「酒造りのこだわり」はこちら! 敬三さんが酒蔵を継いだ20年以上前は、市内近郊のみで普通酒を3000石以上販売した。だが、規制緩和で酒販店が次々に廃業すると販売量も激減。しかも杜氏が突然来なくなり、2012年からは敬三さんが杜氏に。無我夢中で醸した初年度、酒にはなったが味は不満足。翌年から、品質改善へ向けて進撃を始めた。 東京理科大学で材料工学を学んだ敬三さんは、酒造工程の化学的な構造を追究し、その中で「何も手を加えない、搾りたての酒がおいしい」と気付く。そこで無濾過生原酒の直汲みを徹底研究。麹に注力し、長時間かけて仕上げると、米の味がしっかり酒に表れ、後切れも良い。麹菌の種類や冷凍麹、手袋の選定、精米後の保管箱など、酒質が良くなることは何でも試した。
工夫の末に完成した、搾ったままを瓶詰めにした多賀治は、フレッシュで果実感ある香りと、豊かなうま味と酸味が広がる美酒となり、飲んだ人の心をわしづかみにした。雄町サミット歓評会では優等賞を連続受賞し、緻密な酒質設計が評価を受ける。最近新たに複数の酵母をブレンドした「たかじ」を商品化。8代目の挑戦もやむことがない。
(酒食ジャーナリスト 山本洋子) ※週刊ダイヤモンド2024年11月2・9日合併特大号より転載
山本洋子