映画『エマニュエル』で“快感”を追求した女性監督「ウォン・カーウァイ『花様年華』の影響は避けられない」
2025年1月10日(金) に公開される映画『エマニュエル』より、オードレイ・ディヴァン監督が語る映画製作秘話が到着した。 撮影現場でのオードレイ・ディヴァン監督とノエミ・メルランを捉えた写真 エマニエル・アルサンによる官能文学の傑作『エマニエル夫人』。1974年にはジュスト・ジャカン監督、シルヴィア・クリステル主演で映画化され、全世界で大ヒットを記録。本作は50年の時を経て、現代に舞台を変えて描かれる最新作となる。 メガホンをとったのは、1960年代の中絶手術が禁止されていたフランスで、秘密裏に堕胎を行うため孤軍奮闘する少女の姿を描いた『あのこと』を手掛けたオードレイ・ディヴァン。前作では“痛み”を鮮明に描いたディヴァン監督が、本作では“快感”を追求した。 舞台となったのは、かつての『エマニエル夫人』と同じタイではなく、香港の高級ホテル。主人公のエマニュエルは自立した女性であり、ホテルの品質チェックの仕事のために香港にやってくる。前作のようなエキゾチックさはそのままに、艶やかさだけでなく虚しさをも盛り込み、香港の高級ホテルを舞台にしたのはなぜか。 ディヴァン監督は「当初から自然主義から離れ、違う世界をつくりたいと思っていました。ディストピアではないけれど、どこか現実とずれているような世界です。夢と妄想、現実と虚構の境がぼやける不可思議な場所であるこの香港で、映画を作ることを思いつきました。香港は、美しい異国情緒とは裏腹に厳しい階級社会で成り立っている。現実離れした空虚さも兼ね備えた場所という印象を受けたので、こうした場所の植民地的、階級的な暴力を指摘したいと思いました。恵まれたごく少数の快感を支えるのは、恵まれない大多数の汗なのです」と香港の華やかさと、その裏腹にある現実的な部分に目を向ける。 さらに、高級ホテルという場所について「撮影中に私たちが実感したように、高級ホテルは目が回るような場所。匂い、音楽、すべてが永遠で不変です。何かが動いても、次の日には元の位置に戻る。魅惑的でありながら無菌的な雰囲気で、混乱はめったになく、たとえ起こったとしてもすぐに収まる。エマニュエル自身がこの世界の道具になっているのです。彼女は品質管理の仕事に就き、ゲストの体験が可能な限り楽しいものになるようにしているけれど、彼女はこれらの体験が人工的で、装飾の一部であることを知っています。ホテルの環境は社会的距離を生み出し、誰もが一種の鎧を身にまとっていると感じます。公の自分と閉ざされた扉の向こうで起こることの間には区別があり、その場所は現代の孤独を物語っていると思うのです」と、エマニュエルの快感の追及を通し、現代に根付く社会問題にも切り込んでいることを明かした。 映画で描き出される香港の街の鮮やかさについては「香港が舞台ということで、よくウォン・カーウァイの映画が引き合いに出されますが、私自身『花様年華』で描かれるエロティシズムの定義が大好きです。香港で映画を作るうえで、この表現に逆らうことはできません」と、ウォン・カーウァイ作品からの影響を語る。 続けて「実はパンデミックの影響で、かなり長い間香港に訪れることができませんでした。現地を訪れロケハンをしたかったのですが、しかたなくインターネットで撮影場所のホテルを見つけました。パンデミックが落ち着いた後、実際に現地で探せるようになり、さらに40カ所ほどの場所を見ましたが、結局ネットで見つけたその1カ所に落ち着いたのです。後日、そのホテルのデコレーターに会ったとき、彼は『花様年華』をイメージしてホテルを装飾したと教えてくれました。どういうわけかその影響は避けられなかったし、私たちはそれを避けようともしませんでした」と、想定外の縁があったことを明かした。 <作品情報> 『エマニュエル』 2025年1月10日(金) 公開