【世界の野球アメリカ編2】入団テスト初日に肉離れ...初渡航での挫折
そんなジョーンズはある日、日本円を見せてくれと言ってきた。私は見せるだけならと思い、千円札を見せた。すると、返すから1日貸してくれというのだ。何度も断ったが、しつこいので千円ならと思い、彼に貸した。数日後、彼は何事もなかったようにお札を返してくれた。 それから数週間後、彼は「明日家族が来るから日本円を貸してくれ」と頼んできた。千円ならと思い、千円札を差し出すと、一万円札を見せたいというのだ。当然、私は断った。しかし、彼のその日のしつこさは異常で、仲間を呼んで証人まで準備してきた。最終的に、私は一万円札を貸し、明日の朝一で受け取りにくると約束した。
一万円札とともに消えた親友
そして翌日、まさかの結末を迎えた。最高にcoolなジョーンズがいないのだ。彼の部屋には荷物もなかった。ルームメイトに尋ねると、「ジョーンズはもうヒューストンに帰った」と言うのだ。私は、一万円を失った悲しさよりも、親友だと思っていた友達を失ったことが悲しかった。 そんな初渡米は、アメリカ野球を目の前に、指をくわえることしかできない日々だった。それでも、野球関係者にしがみつき、すべての人に「また来る」と誓い、メールアドレスを聞きまくった。近いようで、遠かった憧れのアメリカ野球。その後、帰国を余儀なくされ、アメリカ野球初挑戦の旅は、ほんの一カ月ちょっとで幕を閉じた。 (つづく)
◆色川冬馬 1990年仙台市生まれ。聖和学園高校、仙台大卒。大学在学中にメジャーリーガーを目指し単身渡米。2年後独立リーグと契約。米・メキシコ・プエルトリコ等のリーグでプレーした後、2013年現役引退。宮城で中学生を指導している中、イランでもユース世代に野球指導。その実績が認められ2014年イラン代表監督就任。16年間で1勝しか出来なかったイランを2015年西アジアカップで準優勝に導き、パキスタン代表監督に就任。9月のアジア選手権でパキスタン代表を初のWBC予選出場へ導いた。リトルリーグのラテンアメリカ野球選手権日本代表監督も務める。 【世界の野球アメリカ編1】「メジャーリーガーになる!」19歳の無謀な挑戦