子供たちの可能性を広げるPC教室の新しい形――ICT活用教育の最新トレンド
海外を体験できるVR教室
大田区立大森東小学校では、3面に大きなスクリーンを備えた「海外体験ルーム」を開設(図2)。英語のVR学習サービスを導入し、2023年12月から利用を開始した。その英語の授業は、これまでとは全く違う。3DのCG映像が3面の壁に広がるため、バーチャルな世界に入り込んだように感じる。仮想の海外の街を歩き回り、出会った人々と英語で会話を交わす。当然、子供たちの反応は良く、積極的に参加していた。 東京都大田区は英語のコミュニケーション活動を通じてグローバルな人材の育成を目指す「おおたグローバルコミュニケーション(OGC)」を推進する。同小学校は外国にルーツのある児童が多く、OGCの指定校になっている。区内のほかの学校と比較して、6年間で2倍の時数を英語に使うという。この海外体験ルームも活躍しそうだ。
多目的に使える設備を整える
コンピューター教室を多目的に使えるスペースにリニューアルする学校も増えている。埼玉県鴻巣市は市内の小学校2校で教室を改修。鴻巣中央小学校に開設した「のすっ子未来教室」では、既に1年以上にわたってPBL(課題解決型学習)に活用している。 教室には大型のスクリーンとプロジェクターを2組設置し、高性能のパソコンと液晶ディスプレイもそろえた。PBLで多用するグループ活動がしやすいよう、キャスター付きの机と椅子を採用した。子供たちが協働して作成したスライドや動画を大型スクリーンに投映するといった使い方をしている。 のすっ子未来教室で実践したPBLを通じて、「子供たちは課題を自分ごととして解決するために必要なものを考えて使い、より主体的に動いていくようになってきた」(同市教育委員会)という。
費用負担は今後の課題
東京学芸大学附属竹早小学校にある「SUGOI(すごい)部屋」は、非常に幅の広い使い方をしている。この教室には大型スクリーンと2台のプロジェクターが設置され、簡単な操作でさまざまな情報を表示できる。2画面に別々の内容を表示するだけでなく、ひと続きに表示、1画面だけ表示といった具合に、使い方に合わせて変えられる。2画面に映す「Google Earth」のパノラマは大迫力だ。 同校教諭の幸阪創平氏は、「大スクリーンに投映すると子供たちの反応が違う。子供たちが自分の端末を使うと下を見ている時間が長くなりがちだが、スクリーンなら前を向き、興味・関心を持つようになる」と、その効果を語る。 こうした授業のほかにも、海外の学校とのオンライン交流、病気療養中の児童も参加できるハイフレックス授業、さらには教員向けの研修などにも活用しているという。 リニューアルされた教室は、GIGAスクール端末だけではできない多様な学びを可能にし、子供たちの創造力や協働して課題を解決する力を育成することに貢献するだろう。しかし、こうした取り組みを全国の公立学校に広げるには、改装に相応の費用が掛かることや、活用のためのノウハウや人材が必要になる点が今後の課題だ。先行事例で得られた知見や学習の効果が広く共有される必要があるだろう。 初出:2024年4月22日発行「日経パソコン 教育とICT No.28」
文:江口 悦弘=日経パソコン