「西伊豆の夕日が壮大過ぎた」三戸なつめが役者冥利に尽きると思った地域発信映画
静岡県西伊豆町で巻き起こる、学校教師と付喪神(つくもがみ)の不思議で心温まるファンタジー映画『お屋敷の神さま』。西伊豆町に赴任してきた学校教師・町田トオル役を芸人の石井ブレンド、トオルの教員宅に現れる付喪神のハナちゃん役を三戸なつめが演じた。この作品について、ニュースクランチ編集部がインタビュー。監督の源田と主演の三戸に話を聞いた。 【インタビュー写真】『お屋敷の神さま』の撮影で感じた子どもたちの未来を守りたい ◇神さまに見守られている気持ちになった風景 ――監督にお聞きしたいのですが、付喪神というテーマで撮ろうと思ったキッカケを教えてください。 源田:最初、こういう神さまという設定で撮る、というつもりはなかったんです。ただ、普通のドラマにしてしまうのがあまり好きではなくて…(笑)。ほかにはあまりないような作品を撮りたいという気持ちと、主人公を地域の子どもたちに愛されるようなキャラクターにしたい、という気持ちがあって。最初は座敷わらしで考えていたんですけど、考えていくうちに付喪神の存在を知って、いいな!って思いました。 ――三戸さんは付喪神という役をどのように演じましたか? 役作りが難しかったんじゃないかなと想像するんですが……。 三戸:そうですね。付喪神の役と聞いたときは、劇中で私の演じたハナちゃんも言ってましたが、“いろいろな神さまがいるんだなぁ”って思いました(笑)。神さまっていうからには、もう少し気高く、神々しく演じたほうがいいかなと思ったんですけど、台本を読んで、自分が演じる神さまは自分らしくていいって、どこかで吹っ切れて。結果、楽しく自分らしく演じられたかなって思います。 ――この映画を見た以降は、付喪神の印象が、三戸さん演じるハナちゃんになるくらい、とても良かったです。 三戸:うれしい(笑)。最初、「付喪神」で検索したんですよ。そうしたら、すごく恐ろしい顔の妖怪みたいなのが出てきて…(笑)。そこで、自分はこれにはなれないなと思って、私の容姿だったり、キャラクターを活かせたらいいなと思ったんです。監督も私に合わせてセリフを書いてくださったので、やりやすかったです。 ――主人公である町田トオル役を演じた、芸人の石井マイルドさんとのお芝居はいかがでしたか? 三戸:私は、役に入るとキャラクターをマシマシで演じていたんですが、石井さんは普段の石井さんの延長線上なんですよね。だから、普段と地続きで話せる、ぶつかり合わずに、いいテンポと温度感でできたんじゃないかと思います。 ――芸人としての石井さんを知っている自分としては、石井さんのイメージのまま、でも見ていると石井さんを感じさせないところもあって、素晴らしかったと思います。 源田:三戸さん、石井さん、ともに撮影に入る前に少しお話させていただいたんですけど、三戸さんは本読みの段階で、ご自身で役をきちんとキャッチしてくださっていて、まさにこちらが望んでいることをやってくれました。この作品を見た方は、これからの付喪神は三戸さんの演じたハナちゃんになっただろうなって思いました。 石井さんに関しては、映像でこうやって演技をするのが初めてで、撮影前は不安も口にされていたんですけど、“そのままでいいですよ”と伝えさせていただきました。自然体の石井さんがそのまま、町田トオルに通ずるものがあると感じたので。その言葉を上手に解釈して、やっていただけたのかなと思います。 ――ストーリーも演技もそうですが、舞台となった西伊豆町の風光明媚な感じ、光の鮮やかさも印象に残りました。都会じゃないと出ない温かみがあるような気がして。 源田:ありがとうございます。自分で撮っていて“いいなぁ”と思ったのは、ハナちゃんがお屋敷にオレンジの風鈴を持ち込んだとき、すごくいいカットになったんじゃないかなと思っています。 三戸:思い出に残るシーンはいっぱいあるんですけど、夕陽のシーンがとにかく印象に残っています。本当に壮大過ぎて、神さまに見守られている気持ちになったんです。それが本当に忘れられないし、その感じが見ている方に少しでも伝わればいいなと思います。 ◇私が神さまになれるんだ、役者冥利に尽きるぜ! ――子どもたちに向けて、というお話も出ましたが、この作品をどういう方に見ていただきたいなどはありますか? 源田:子どもたちもそうですが、やはり海外の方々にも見ていただきたいですし、西伊豆という地域の魅力を知っていただきたい。自分が出演した作品では、映画の内容としては少し変化球で斬新なところもあるので、そこを感じていただけたらと思いますし、本当に人として大事なこと、忘れちゃいけないことを作品を通じて感じていただきたいです。 ――ちなみに、付喪神を演じた三戸さん自身は、神さまという存在を信じるのでしょうか? 三戸:めっちゃ信じるんです、じつは。そういうことについて考えるのが大好きなんです。だから、この役のオファーが来たときに“私がついに神さまになれるんだ、役者冥利に尽きるぜ!”みたいな(笑) ――あはははは!(笑) 三戸:(笑)。でも、表面的には“やった!”なんですけど、きちんと役柄と向き合ったときに“神さまってなんぞや?”みたいな、正解がなさすぎて……。これまで何かの役と言われたら、その役作りをするときの教材、例えばその役の職業の方などを観察したりしていたんですけど、神さまって何を見ればいいんだ?って。 最終的には、“自分の中の神さまを作るしかないな”という結論に達したんですけど、これって、じつは皆さんの中にも、それぞれ神さまって存在するんじゃないかなって。自分の中に神さまを作ることで、それが救いになるし、日常への活力になるんじゃないかということに気づきました。 ――あまりネタバレになってしまうので言えないのですが、ラストもカラッとしていて、とても良かったです。 源田:ありがとうございます、それは意識したことかもしれないです。終盤の夕陽のシーンなども、いろいろと解釈できるようにしてあるので、見ていただいた方の感想がそれぞれ違ったりすると、うまく表現できていたかなと思いますね。 ――では最後に、源田監督には「沖縄国際映画祭」で上映してみて、これからの展望を聞かせてください。 源田:この映画は、西伊豆の地元の方や町の方、大勢の方々に協力していただいて完成した作品なんです。6月には凱旋上映もあるので、まずは協力していただいた方々に喜んで見てもらいたいというのと、この作品が海外にも広がっていくようにできたらいいなと思っています。 ――ありがとうございます。三戸さんへの最後の質問は、神さまにひとつ、お願いごとをするとしたら? です。 三戸:すごい大きいことですと、世の中から戦争がなくなりますように、ということですね。ずっと考えていたことではあるんですけど、この『お屋敷の神さま』に出演して、出てくれた子どもたちと接するうちに、いろいろな感情が湧いてしまって。子どもたちの未来が明るかったらいいなと思いますし、できるだけ笑顔で大人になれる道を、私たちが作っていくことが必要だと感じています。
NewsCrunch編集部