Doubleから宇多田ヒカルまで、海外で再発見され続けるJ-R&B 現行シーンに溶け合う豊かな音楽性
J-R&Bを取り巻く状況に変化が起きている。ストリーミング環境とリバイバル、それによって開かれた海外からの回路――というとR&Bに限った話ではなくそもそも近年の日本のポップミュージック全般にあてはまる話だが、だからこそ今の事態は、いよいよJ-R&Bにもその順番がまわってきたということなのかもしれない。 【写真多数】宇多田ヒカル、3つの衣装をまとった6年ぶりツアー というのも、2000年代のJ-R&Bは、長らくリバイバルの予感があったからだ。近年Y2Kの空気が復権する中で、様々な角度から2000’s J-R&Bのムードがリファレンスにされてきた。雑誌『WOOFIN'girl』に象徴されるファッションや、安室奈美恵やSOULHEADといったアーティストの作品が生み出したアートワークは、多くのクリエイターが参考にしてきたところ。また、シティポップの流行による日本の音楽への注目、そこからサウンドの親和性が高い隣接ジャンルとしてJ-R&Bに関心が集まっている流れもあるかもしれない。つまり、ムード的にもサウンド的にも、2000’s J-R&Bのリバイバルを喚起する下地が出来上がってきたというわけだ。 そういった変化が起きる中で、まずは海外からのリアクションが盛り上がっているというのが興味深い。例えば、ロンドン拠点のエレクトロニックプロデューサー/ミュージシャンであるロレイン・ジェイムスは、インターネットラジオ「NTS Radio」で“Japan 2000s R&B Special”と題したプログラムを展開。そこでは、F.O.HやMichico、Doubleといったコアな面々がリストアップされていた。実際、ロレインは日本フリークで、R&Bに限らず多種多様な日本の音楽をディグっているという。また、NewJeansが「Supernatural」でManami「Back of My Mind」をサンプリングしたことも話題になった。NewJeansはHAERINが宇多田ヒカル「Automatic」をカバーしたりとJ-R&Bの文脈に敏感で、K-POP勢では他にLE SSERAFIMのKIM CHAEWONも宇多田の「First Love」をカバーしている。ドラマ『First Love 初恋』(Netflix)がアジアでヒットしたことや、『コーチェラ・フェスティバル 2022』の舞台に立ち当時の曲を全世界へと届けた宇多田ヒカルの影響力は、やはり大きいのだろう。 そして、様々な国から注目が集まっている中、その決定打として象徴的だったのが今年TikTokで発生したDouble「Strange Things」のリバイバルヒット。J-R&B好きのインフルエンサーを介して始まったとされるバズは欧米圏で拡大、「2000年代のJ-R&Bは面白い」「エリカ・デ・カシエールに似ている」といった指摘とともにみるみるリアクションを増やしていった。YouTubeに投稿された「Strange Things」の動画では、海外から実にたくさんのコメントが書き込まれており、異様な熱量を生んでいるのが分かる。スロウなテンポのサウンドに気持ちよさそうにノる様子がTikTok上には溢れているが、異国でのヒットにおいては、頻出する母音が伸びやかに発音されるという日本語独自のたおやかな響きも関係しているのかもしれない。また、〈恋はとても不思議〉と歌うボーカルとアンニュイなトラックはどこか神秘的かつフェアリーで、聴き手のノスタルジーを喚起しやすいのだろう(とは言っても欧米圏のリスナーの多くはリアルタイムでJ-R&Bを通ってきていないわけで、ここでいうノスタルジーは、シティポップと同様“架空の”それであるわけだが)。 さらに2000’s J-R&Bは、当時のバウンシーなヒップホップの影響を受けたものから、ネオソウルにルーツを持つもの、生音を配したアコースティックなもの、歌謡曲のトップラインを搭載したものなど、実に幅広い音楽性が混在していた。そう考えると、Doubleは日本のR&Bのサウンド感を担うほんの一部分でしかなく、今後、他にも2000’s J-R&Bの多彩な面が発見されていく可能性はあるだろう。いわゆる和製ディーバと呼ばれた女性シンガーだけでなく、三浦大知やw-inds.、平井堅、椎名純平といった男性シンガーにも当時から素晴らしい才能が多く、いつどんな角度からJ-R&Bが掘られてもおかしくない豊富なバリエーションを有している。