60年前にもあった「ジョブ型雇用」議論、日本で見捨てられた当然すぎるワケ
実は今日の春闘でも、圧倒的多数の平均賃金方式と並んで少数の組合による個別賃金方式の要求とそれへの回答が行われています。連合の回答集計では、次の3種類に分けて引上げ額と引上げ率を公表しています。 A方式:特定した労働者(たとえば勤続17年・年齢35歳生産技能職、勤続12年・年齢30歳事務技術職)の前年度の水準に対して、新年度該当する労働者の賃金をいくら引き上げるか交渉する方式。この部分を連合は「純ベア」と定義した。 B方式:特定する労働者(たとえば新年度勤続17年・年齢35歳生産技能職)の前年度の賃金に対し、新年度(勤続と年齢がそれぞれ1年増加)いくら引き上げるかを交渉する方式。 C方式:個別銘柄で、引き上げ後の水準をいくらにするかを要求する方式。 ● 日本的な個別賃金要求は 年功賃金制をより強化する ジョブ型雇用社会であれば、銘柄とは職務それ自体以外にはありません。各職務とそれぞれごとに定義された熟練度が銘柄であり、それに値札がついているというのが雇用社会の基本だからです。
ところが、その値札のつくべき職務というものがほとんど存在していないのが日本なのです。職務概念の欠落した「銘柄」とは何か。それは結局、勤続年数や年齢といったものに落ち着くしかありませんでした。つまり、日本的な個別賃金要求は、年功賃金制をより強化する方向にしか向かいようがなかったのです。それは既に70年以上昔に全自日産分会(編集部注/全自は、全日本自動車産業労働組合の略称。日産自動車にあった下部組織が日産分会)が試みていたことでした。 では、そういう勤続年数や年齢ではなく、職務に基づいた個別賃金要求を日本で展開していく見込みはあるのでしょうか。 欧米のジョブ型社会ではごく普通の常識として行われていることですが、現実の日本ではこれほど難しいことはほかにないのではないかと思われるくらい困難な課題だといわなければなりません。 賃金の上げ方は賃金の決め方の上に成り立つものです。属人的、年功的な所属給である日本の賃金の決め方の上には、それと密接不可分な仕組みとしてのベースアップと定期昇給という賃金の上げ方/上がり方が乗っていて、上部構造だけを取り替えるというわけにはいかないからです。