パリ五輪日本選手団の“表彰台ジャケット”、実は全員違うデザイン アシックスに協力した「ハトラ」に聞く
長見:アシックスにはスポーツ工学研究所があり、長年人体データを収集し、科学的にシューズやアパレルの生産に取り組んでいます。そのデータの活用の仕方や分かりやすく世に見せるという点で、自分にも協力できる部分があるなと感じました。
大堀:選手が走ったり、動いたりした時に、ウエアのどの部位にどれくらいの圧力がかかるかといったことも3Dモデリングでは可視化できます。そこに、アシックスがもともと持っていた「ボディサーモマッピング」の技術も組み合わせ、シミュレーションしていきました。“ポディウムジャケット”はアシックスの福井の工場で縫っているので、海外工場で縫うよりは生産に時間がかかりません。しかし、サンプル製作には最低でも1~2週間が必要。その点、デジタルシミュレーションなら瞬時に結果が出ます。圧力がかかりやすい脇の下のパーツなどは特に何度もシミュレーションを重ね、その上で実物のサンプルを試作して検討を重ねて作っています。製作にかかった期間はトータルで2年以上ですが、多いときで週に4~5回、なんなら1日に3回オンラインでミーティングしたこともありました。デジタルシミュレーションを多用したことで、廃棄するサンプルを減らすことにもつながっています。
「集団でなく個にフォーカスしたい」
WWD:色柄やシルエットなどのデザインで特に重視したことは。
長見:選手団としてチームの一体感は持ってもらいたい。ただ、個人が集団に埋もれてしまうことなく、選手1人1人にフォーカスするようなデザインにするにはどうしたらいいかを強く考えました。“ポディウムジャケット”はグラデーションカラーの生地でパーツを裁断・縫製しており、全く同じデザインは1着もありません。一つのユニホームでありながら、実は各自が着ているものが全て違うというコンセプトはなかなかないと思います。
大堀:実際に服を着るのはアスリートであり、もちろん彼らの意見も重視しています。これはオリンピックにおいて毎回難しいポイントですが、製作している段階では出場が内定している選手はほとんどいません。そこは日本オリンピック委員会や日本パラリンピック委員会と協業して作っています。“ポディウムジャケット”はスポーツウエアであることが前提ですが、選手にとっては正装であり、特にクラシックな競技の選手や関係者からは、スーツのような品格のあるたたずまいを求める声も多くいただきました。それに応えられるよう、襟がきれいに立つパターンや、特殊な4層構造のニット素材をメインに使用することで、軽量でありながらしっかりとした生地感も追求しています。