「ボケ防止に納豆はどこまで有効か」の最終結論…医師が解説「脳に効く食べ物」をめぐる驚きの真実
認知症予防に効果的な食材は何か。医師の西崎知之さんは「古くから“健康にいい食べ物”として食卓に上っていた納豆は脳梗塞予防になったとしても、認知症予防やボケ防止には直接つながらない。また卵がどれだけ脳に有効かは疑問で、ブロッコリーを食べると認知症が予防できると考えるのも早計だ」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。 ■ボケ防止に納豆はどこまで有効か 「頭にいい」食材として納豆が見直されているようです。 納豆は日本発祥のソウルフードで、弥生時代にはすでにあったという説もあるそうです。骨の発育に欠かせないビタミンK2 やマグネシウムなどが含まれていることもあって、古くから“健康にいい食べ物”として食卓に上ってきました。 その納豆が改めて注目されたのはナットウキナーゼという成分が含まれているからです。ナットウキナーゼは酵素の一種で、血をサラサラにする働きがあり(血栓溶解作用)、脳梗塞予防に有効といわれています。 脳からの連想で認知症にも効果があるといわれているのかもしれませんが、実際にどこまで認知症に有効なのでしょうか。 ナットウキナーゼは小腸で細かく分解されないと吸収されません。そして分解されたナットウキナーゼは血をサラサラにする作用がなくなります。 仮に、納豆を食べて分解されないナットウキナーゼが吸収されて脳梗塞予防になったとしても、残念ながら認知症予防には直接つながりません。ボケ防止も同様です。 ほかにも納豆にはレシチン(ホスファチジルコリン)というリン脂質の成分も含まれています。 そんなところから、「ホスファチジルコリンはアセチルコリンをつくる成分を含んでいて、記憶力をアップさせる」ともっともらしく説明されることもあるようです。
■大豆にはビタミンEが多く含まれていて、抗酸化作用も 「頭にいい」といえば、短絡的にアセチルコリンと結びつけられることが多いですが、認知機能・記憶力はアセチルコリンだけで調節されているわけではありません。ですから、ただ単にアセチルコリンだけを増やしても認知機能・記憶力アップは期待できません。 また、納豆にはビタミンEも多く含まれています。ビタミンEには抗酸化作用と血流改善作用があります。納豆が認知症予防になるかどうかは別として、「身体にいい」ことは間違いありません。 そもそも納豆が「身体にいい」のは、発酵食品だからというよりも、原料の大豆が身体にいいからではないかと私は見ています。大豆にはビタミンEが多く含まれていて、抗酸化作用もあります。 その大豆は脂肪肝にも有効です。 かつて脂肪肝というのは、それほど心配することはないといわれていましたが、今日ではほうっておくと肝硬変から肝がんに移行していくことがわかっています。放置するわけにはいかないのです。 納豆にはその予防効果があるようです。 一時はその独特な匂いが苦手という人も少なくなかったようですが、今日ではそれも納豆の“個性”として、多くの人に愛されています。商品も「つゆだく」だ、「そぼろ」だといろいろあるみたいですね。 ■卵がどれだけ脳に有効かは疑問 水溶性のビタミン様栄養素である「コリン」は、人間のあらゆる細胞に存在していて、若さや健康を保つことに寄与しています。 コリンは、脳において重要な働きをしています。コリンはα7アセチルコリン受容体を活性化し、学習に関するシナプス伝達長期増強現象を引き起こします。 つまり、コリンは記銘力アップの手助けをするといっていいでしょう。 だからなのか、コリンが含まれている卵(鶏卵)にも注目が集まっています。 しかし、果たして卵のコリンが脳に到達して、α7アセチルコリン受容体を活性化できるかどうかは不明です。 また、コリンは神経伝達物質のひとつであるアセチルコリンの原料になります。「アセチルコリンは認知機能に重要な働きをしているので、アセチルコリンを増やせば認知症が改善する」と盛んに宣伝されています。 この宣伝はまんざら「ウソ」ではありませんが、脳の中にはたくさんの種類のアセチルコリン受容体が発現しています。すべてのアセチルコリン受容体が認知機能に関係しているわけではなく、認知機能に直接携わっているのはα7アセチルコリン受容体です。 アセチルコチンはすべてのアセチルコリン受容体を活性化します。つまり、認知機能だけを高めるわけではないのです。 α7アセチルコリン受容体以外のアセチルコリン受容体が活性化されることによって、逆に認知機能が悪くなったり、攻撃的で怒りっぽくなるといった副作用が現れる心配も出てきます。 さらに、卵に含まれるコリンが脳のアセチルコリンをどれだけ増やすかもわかっていません。 卵を食べること自体は悪くありませんが、脳にどこまで有効かは疑問です。 また、卵から脳に有効な成分を摂取しようとしたら、かなり大量の卵を食べる必要があります。毎日、大量の卵を食べ続けることは現実的には不可能でしょう。