『室井慎次』本広監督、「踊る大捜査線」とのリンクを生み出す秘訣 演出の基本は「全員で考える」
考えることで映画が変わる
『室井慎次』で、特に助監督たちのアイデアが生きたところはどこだったのだろう。「杏(日向杏/福本莉子)がガレージに火をつけるところです。いくらマインドコントロールをされていても意図的に火をつけるのは重罪だし、室井さんのコートを印象的に燃やしたかった。自分だけの考えだとどうしてもうまくいかなかったんですけど、助監督たちがアイデアを出してくれました。火をつけて、一瞬我に返ってマッチを投げて、それがオイルに引火してバーッと燃え広がってしまう、というあたりですね。莉子ちゃんのお芝居も素晴らしくて、ハマりました。マッチも、室井さんは煙草を吸わないけど、青島(俊作/織田裕二)につながるような室井さんっぽいものになっているんです」 「オイルも実際の会社のものではまずいので、プロデューサーの古郡(真也)の名前です(笑)。今回の助監督は彼の会社の子たちが多かったんです。僕ともバラエティー時代から一緒で、『踊る』も最初のころからやっていますから。助監督が優秀だと監督は助かりますね」と本広監督は語るが、その人が実力を発揮できる環境か否かは、上の者次第。室井の立場が思い出される。「言いやすい環境を作るのは、常に心がけています。助監督をみんな集めて、これはどう考えるか、監督になるつもりならもっといいアイデアを出さないとダメだよって、授業みたいにやっていました。考えるだけで映画ってこんなに変わるんだよ、ということは、実感させてあげたいなと思っています」
本広監督は「踊る」シリーズの後、自身の監督作を録りつつ、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」やドラマ「さらば銃よ」など、いくつかの作品に総監督や監修という形で関わってきた。「自分で監督しなくても、総監督や監修という形でも十分いけると思いました。若い人が撮ったほうが、体力があるしめちゃめちゃ考えているから、いいんです。僕もアイデアを出したりはできるんで」と笑った。後進を育てることの大切さを、本広監督は以前から語っている。エンターテインメント界全体に目を向ければ、確かにそれは大事なことだろう。