繰り返される警官狙撃事件 米国の人種間の亀裂は決定的になってしまうのか
米国で警官による黒人射殺事件が再び社会問題化しています。7日には、これに抗議するテキサス州ダラスのデモの最中に警官が狙撃され、17日にもルイジアナ州バトンルージュで警官が撃たれ死亡。人種間の溝がさらに深まりかねない情勢になっています。2014年にもミズーリ州ファーガソンとニューヨークで丸腰の黒人男性が白人警官に殺害され、不起訴になる事件があり、抗議運動が沸き起こりました。こうした米国社会の混迷の背景には、根深い人種間対立だけではなく、格差や銃社会といった問題も透けて見えるようです。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。 【写真】トランプ氏が仕掛ける選挙戦術「分断の政治」の危うさ
●白人警官と人口比率
米国で人種対立が再燃しつつある。 とりわけミズーリ州ファーガソン(2014年)やメリーランド州ボルティモア(15年)における警官の黒人殺害が引き金となり、全米各地で抗議デモが激化、「Black Lives Matter」(黒人の命も大切だ)を掲げる運動も広がりを見せている。 2015年には少なくとも346人の黒人が警官によって殺害され、その割合は白人の3倍。今年はすでに187人に達している。うち3分の1が丸腰のまま殺害され、その割合は白人の5倍。黒人は白人の5分の1の人口に過ぎないのに、である。しかも殺害に関与した警官の97%が不起訴処分になっている。 地域によってもバラツキがあり、例えば、ニュージャージー州ニューアークとミズーリ州セントルイスは人口規模、黒人の割合、殺人率が類似しているものの、13年以降、警官による黒人の殺害数は前者が皆無、後者が16人となっている(同上)。 こうした違いの一因として、警察における白人比率の高さが影響しているのではという見方もある。ニューヨークタイムズ紙の記事(15年4月8日)によると、白人警官の割合が地域の白人人口比より30%以上高い警察署が多いという。ファーガソンでは人口の65%が黒人なのに対し、白人警官が50人、黒人警官はわずか3人だった。