「米アメフト史上最高のワイドレシーバー」に天賦の才能はあったのか? 生涯競技時間「150時間」に対して、彼が練習に費やした時間は
究極の鍛錬#1
何らかのことが「できる/できない」は天賦の才能によるもの、と考えている人は少なくないだろう。そこに異論を唱えるのが、20カ国以上で翻訳され、何年も読まれ続けるロングセラーの新装版『新版 究極の鍛錬』。 【画像】必ずしも傑出した才能の持ち主でなかったジェリー・ライスを「NFL最高のワイドレシーバー」たらしめた究極の鍛錬
モーツァルト、タイガー・ウッズ、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットなどの天才たちを研究した成果とともに、才能の正体に迫り、ハイパフォーマンスを上げる人たちに共通する要素「究極の鍛錬」を突き止めた本書から、伝説の天才アメフト選手が生まれた背景をご紹介する。
天才アメフト選手の誕生
ジェリー・ライスはミシシッピ州のクローフォード(人口636人)という小さな町に育ち、スカウトされて高校のアメリカンフットボールチームに入部した。チームの監督はその若者の足がとても速いという報告を聞いていたので、説得してテストを受けさせることにした。 実際、ライスは素晴らしい選手で州の代表チームにも選ばれた。しかし、アメフトで有名な大学が奨学金を出して入学させるほどの選手ではなかった。 最終的にはミシシッピ州イッタベナ(人口1946人)にあるミシシッピバレー州立大学からアメフト奨学金を受け、入学し、そこでその後の4年を過ごした。 その小さな学校でライスは大スターだった。ワイドレシーバーとして数々のNCAA(National Collegiate Athletic Association/全米大学体育協会)の記録を何度も塗り替えた。 最終学年ではすべての全米フットボールチームの大会に選出され、大穴ではあったけれどもハイズマン賞(大学フットボールでもっとも活躍した選手をたたえる賞)の候補者の一人にも選ばれた。 しかし一方、全米プロフットボールチームが奪い合うような傑出した選手ではなかった。難点はライスのスピードにあった。クローフォードの町の基準ではたしかに速かった。大学のスター選手としても十分な速さだった。 しかし、アメリカンフットボール最大のプロリーグNFL(National Football League)の基準でみたスピードでは特別な存在ではなかった。1985年のドラフトで、15チームがライスを見送ったあと、ようやくサンフランシスコ・フォーティナイナーズと契約を交わすことができた。 今ではライスはフットボールファンなら誰でも知っているようにNFL史上最高のレシーバーであり、フットボールの専門家の中にはポジションに関係なくライスが最高の選手にちがいないと信じる者さえいる。 あれほど高いレベルで厳しく、競い合っていることを考慮すれば、リーグにおけるライスの圧倒的な強さは信じがたいものがある。 たとえば、タッチダウンパスを含めパスを受け取る際の獲得ヤードはライスがもつ記録と2位の選手の記録とには5%や10%ではなく、20%から50%もの差があるのだ。 記録とはいつしか破られるものだと考えたほうが無難ではあるものの、鉄人ライスの記録を破るのは非常に難しいことだ。 危険なポジションで20シーズン(20年間)プレーをし、医者の助言を聞かずプレーに復帰したが、ケガで14週間休んだ1997年を除いて、ほとんどすべてのシーズンでライスはプレーをしている。 今後誰かが過酷なゲームでライスのように何年にもわたりずば抜けて高い水準でプレーを続けることは、無論不可能なこととはいえない。しかし、これまでの歴史をみるかぎり起こりうる可能性はきわめて低いように思える。
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