2年がかりの米大統領選が実質スタート なぜこんなに長い選挙を行うのか?
長期化の背景に「候補者心理」と「メディア」
では、なぜこんなようになったのでしょうか。それには複合的な要因が影響しています。まず、背景として、1970年代に「代議員」の選出を開かれたものにしようとする政党側の改革があり、この改革をきっかけに、一般の有権者に情報を与えるメディアの役割が重要になりました。 ただ、メディアとしては、「ニュースバリューがある」のはどうしても「初物」なので、予備選段階前半の特定州に報道が集中しました。有権者の注目も予備選段階の前半に集まることになります。この状況を見ていた他の州は、大統領候補選出における自分たちの影響力を失いたくないため、選挙日程をどんどん前倒ししていきました。このことによって、選挙戦の重点がさらに予備選の前半部分に偏ることになり、メディアの報道もさらに前半部分に集中することになりました。 前倒しされる予備選日程の中、「遅れてはならない」というのが候補者陣営の心理です。そのため、選挙運動の方もどんどん前倒しされていきました。「影の予備選」が過熱する背景にある候補者陣営の焦りがあります。 選挙戦が長くなることは、候補者にとっては費用がかさむことになります。実際、「影の予備選」が長引くようになってから、大統領選挙にかかる費用は増え続けています。過熱する「影の予備選」は、政治参加の機会が増えることではありますが、金権政治を生むという批判もあり、大きな曲がり角に立っています。
■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後,ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA),メ リーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単 著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が 変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)