正論か暴論か!?…マージャン賭博、清原バット投げ事件…「野武士」土井正博の豪胆発言
球界で「技術屋」として重宝された男
私が知る限りにおいて、「野武士」という言葉が、これほど似合う野球人はいない。 近鉄、太平洋・クラウン・西武で通算2452安打、465本塁打、1400打点。近鉄時代には「18歳の4番打者」として一世を風靡した土井正博だ。内角のボールをヒジをたたんでレフトスタンドに持っていく技術は一級品で、コーチとしても清原和博、松井稼頭央、中島宏之ら多くの高卒選手を超一流に育て上げた。 【写真】大谷翔平がメジャーに行く前に「熟読していた文庫本」、その「本の名前」 知将・野村克也の言葉に「人間的成長なくして技術的進歩なし」というものがある。翻って土井は、技術は教えても、人としてどうとかこうとかは、一切言わなかった。おそらく「自分は技術屋」と割り切っていたのだろう。 逆に言えば、そこが土井の最大の人間的魅力で、上司に媚びたり、おもねったりすることを良しとはしなかった。 にもかかわらず、74歳までコーチとしてユニホームを着続けることができたのは、多くの監督やフロント幹部が土井の卓越した指導能力に一目置いていたからだろう。 バット1本肩に担いだ渡世人――私の目にはそう映った。 土井には、よく話を聞きに行った。こと打撃技術に関する話で、この人の右に出る者はいなかった。自らが手塩にかけて育てた選手に対しては、どこまでも深い愛情を注いだ。その代表格が、西武入団時、自らと同じ「18歳の4番打者」として注目を集めた清原だった。
「クリーンが好きならアイドルで野球を!」
清原がデッドボールをぶつけられたロッテの平沼定晴にバットを投げつけ、2日間の出場停止処分をくらったのは1989年9月23日のことである。清原は入団4年目の22歳だった。 実は、この時、土井はベンチにいなかった。5月にマージャン賭博事件に関与していたとして現行犯逮捕され、球団を解雇されていたのだ。 逮捕に至る経緯が知りたい。率直に取材を申し込むと、土井は二つ返事で受けてくれた。 土井によると、赤坂のマージャン店に数人の警官が踏み込んできた時、最初は「冗談かと思うた」そうだ。「お客さんがふざけてやっているんやろうと。ところが、いきなり“手を上げ!”とやられ、その場に置いていたカネや財布を写真で撮られてしまった。もう、その時は覚悟できていたね。これはクビやろうと……」 その後の言い草が土井らしかった。 「でもね、こうなることはある程度、察しがついていた。2、3日前から(警官が)張り込んでいたというからね。チクった人間に対しては、きっちり仕返ししてやらんといかん。いかにチクられた人間が苦しい思いをしているかということを教えてやらないかん。もっとも相手を殺すとか、そういうことやないけどね」 ――清原の件はどう思う? 「バットを投げたという事件の性格はともかく、デッドボールを投げてきたピッチャーに向かっていったあの態度は立派やったと思いますよ。というのも、普通、プロ野球のピッチャーいうたら、最低でも140キロ台のスピードボールを投げることができるわけです。 皆さん、普通の車が140キロのスピードで突っこんできたらよけられますか。よけられるわけありませんよ。もし清原があれで大きなケガでもしていたら1、2カ月は戦列を離れないといけない。その間の保障は誰もしてくれんわけですよ」 ――DH制のパ・リーグでは、ぶつけても仕返しされる恐れがないため、ピッチャーが“当て得”になっているとの指摘もある。 「そのとおりですね。ところが少しでも乱闘を擁護すると、すぐにマスコミはクリーンではないと書きたてる。とくに今は企業イメージの低下を恐れて、どのチームも西武と同じようにクリーン、クリーンと言うでしょう。そんなにクリーンが好きなら、どこかのアイドルでも呼んできて野球をやらせればいいんですよ。アマはともかく、プロ野球はそんなに甘っちょろいもんやないんですから」 ――要はナメられるなと? 「いやナメられて終わるのならまだしも、へたなところにぶつけられると野球ができなくなることだってありますからね。とくに清原の場合、体が開くクセがあるでしょう。開くと体の内側がピッチャーに向くようになり、そこにぶつけられるとひとたまりもないんですよ。大ケガの恐れさえある。 その点、外国人は内角にボールが来ると、必ず体を反転させて、体の外側を向けるでしょう。あれはアマチュアのころからゴムボールでデッドボールに備えての訓練をやっているから、咄嗟にやれるんです。しかし、残念ながら清原はまだその技術を身につけていない」 ここから話は技術論に移行していくのだが、それについては、また別の機会に譲る。コンプライアンスが幅をきかせる今のご時世にあって“ふてほど”が服を着て歩いているような御仁は、もはや絶滅危惧種である。土井には球界最後の打撃職人として、長生きしてもらいたい。
二宮 清純