「103万円の壁」議論で注目される、自民党政権下で続けられてきた社会保険料アップ 会社員には「手取り減」と「賃上げ抑制」という二重のしわ寄せ
「手取りを増やす」と訴えて総選挙で躍進した玉木雄一郎・国民民主党代表。その主張がサラリーマン層の共感と支持を呼んだのは、われわれの「手取り」が自民党政権で大きく減らされてきた現実があるからだ。【前後編の前編】 【図解】年収600万円のケースで試算。企業負担分も合わせると、給料からの天引きは20年でこれだけ増えた
社会保険料で30%奪われる
玉木氏が自民党に突きつけた「手取り」を増やす具体的な策が、「年収の壁」(課税最低水準)を現在の103万円から178万円に引き上げることだ。 サラリーマンの所得税・住民税は、給料(年収)から「基礎控除」や「給与所得控除」などを差し引いた金額に対して課税される。 この基礎控除を増やして「年収の壁」を178万円に引き上げれば、年収178万円以下の人が税金ゼロになるだけでなく、年収300万円なら税金の減少で手取りが11.3万円増え、年収600万円なら同じく手取りが15.2万円増と、すべての年収で手取りがアップするのだ。 これに対して政府は、玉木氏の要求を実施すれば所得税・住民税合わせて7.6兆円も税収が減るという試算を発表した。与党内には、「そんな財源はない」と反対論が強い。 だが、これまでにサラリーマンが手取りをどれだけ減らされてきたかを見ると、玉木氏の主張は当然だとわかる。 経済ジャーナリストの荻原博子氏が指摘する。 「サラリーマンの課税最低水準はこの30年あまり103万円のまま変わっていません。しかし、その間、給料から天引きされる社会保険料はどんどん引き上げられ、税額が低くなる各種控除が次々に廃止された。国民に見えにくい形で巧妙に負担が増やされ、知らず知らずのうちに手取りが大きく減らされてきたのです」
「手取り減」と「賃上げ抑制」の二重のしわ寄せ
では、サラリーマンの手取りはどれだけ減らされてきたのか。 掲載した図(後編記事参照)は、40~44歳の男性の平均的水準である年収600万円のサラリーマン(妻と子供1人)の手取り額が約20年間でどう変わったかを試算したものだ。 一目瞭然なのは、給料から天引きされる厚生年金、健康保険、介護保険などの社会保険料の大幅アップだ。 小泉純一郎政権で年金改革が行なわれる前の2003年には社会保険料率(労使合計)は給料の約24.4%だった。しかし、年金改革と称して厚生年金保険料が段階的に引き上げられて2012年には約27.8%、さらに安倍晋三政権下で「社会保障と税の一体改革」が実施され、現在(2024年)は30.9%へと負担が重くなった。 年収600万円のサラリーマンが額面の給料から天引きされる社会保険料の合計額は2003年の約72万円から2012年には約82万円、2024年は約92万円へとハネ上がっている。その分、手取りはどんどん減っていった。 それだけではない。社会保険料は、原則労使折半で負担するため、企業は社員とほぼ同額を人件費として別途負担している。 そのため、企業の社会保険料負担が増えると、人件費が増加して社員の給料を上げる余裕がなくなる。 社会保険料率アップでサラリーマンは「手取り減」と「賃上げ抑制」という二重のしわ寄せを受けることになったのだ。 (後編に続く) ※週刊ポスト2024年11月22日号