センバツ2021 1回戦 京都国際、聖地で躍動 スタンド歓喜、延長戦制す /京都
京都国際、聖地に大きな一歩を記す――。兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開催中の第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社など主催)は第5日の24日、1回戦3試合があり、春夏通じて初の甲子園出場を果たした京都国際は、第2試合で柴田(宮城)との初戦を迎えた。初回に2点を奪われるなど追う展開となったが、終盤の七回に3点を挙げ逆転。同点に追い付かれてからも、延長十回に2点を挙げて勝ち越すなど最後まで粘り強く攻め、歴史的な甲子園1勝をつかみ取った。2回戦は第8日の27日、第2試合(午前11時40分開始予定)で東海大菅生(東京)と対戦する。【中島怜子、長沼辰哉】 待ちに待った瞬間は、同点で迎えた延長十回に訪れた。1死二塁、数々の場面で好守備を見せた中川勇斗(はやと)捕手(3年)が右翼への適時打を放つ。更に1死一、二塁から辻井心(じん)選手(2年)の打球も適時二塁打に。試合を決める貴重な2点。部員や家族らが詰め掛けた三塁側アルプススタンドは、歓喜の渦に包まれた。 初回から相手に2点を許すなど、当初はアルプススタンドも不安な空気が漂っていた。「でも、きっとここから得点できる」。試合開始前のグラウンドでのノックを終え、スタンドから見守っていた岩淵雄太コーチが落ち着いた声で語る。「うちは強いチームではないので、失点は当たり前。いつも通りだ」 先発の森下瑠大(りゅうだい)投手(2年)も二回以降は立ち直り、スコアボードは「0」が並ぶ。とはいえ、京都国際打線も相手投手に抑え込まれ、中盤は3者凡退が続く。2003年の野球部主将、李良剛(イヤンガン)さん(35)は「そろそろ得点がほしい」と歯がゆい表情。06年主将の李昌季(イチャンゲ)さん(32)も「好機で1本が出れば」と安打を待ちわびる。 先輩たちの思いに、後輩たちが応える場面は七回にやって来た。四球や内野安打などで1死満塁の最大の好機を迎えると、右脚のケガから復帰し、高校での公式戦初出場となった武田侑大(ゆうと)選手(2年)が、走者一掃の適時三塁打を放つ。京都国際が甲子園で挙げた初めての得点。ナインの快挙に、アルプススタンドの誰もが立ち上がり、ベンチを温める暇もない。 継投していた平野順大(じゅんた)投手(2年)も粘りの投球を見せ、リードを最後まで守り切った。「応援ありがとうございました!」。試合終了後、ナインがアルプススタンドに頭を下げると、スタンドの部員たちは拳を突き上げ、勝利を共に喜んだ。記録にも記憶にも残る聖地初勝利は、部員40人全員でつかみ取った勝利だった。 ◇二つのお守りに祈り 教諭と生徒ら作製 京都国際の2点リードで迎えた延長十回裏。三塁側アルプススタンドでは3年生部員のクラスメートが、ダルマとユニホームの形をした2種類のお守りを握りしめ、固唾(かたず)をのんで一球一球を見つめた。 ダルマのお守りは3年生部員18人のクラス担任、福田楓教諭がセンバツ出場を決めた部員をみんなで元気付けようと、自分とクラスの生徒全員分となる計33個を作製。一方、ユニホーム形はクラスメートの女子生徒が放課後の時間に分担し、33個を作り上げた。どちらも開幕前日の3月18日、ホームルーム中にサプライズで部員たちに渡したという。 福田教諭は「みんな、本当に仲がいい」と目を細める。多冨心実(たふここみ)さん(3年)は「細かく縫う作業が大変だった。野球部員がカバンにつけてくれたのがうれしかった。お守りを持って頑張ってほしい」とエールを送った。【長沼辰哉】 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇チーム生かす判断で貢献 山口吟太主将(3年) 高校での甲子園初打席は、2点を追う七回に訪れた。いつも通り三塁コーチャーを務めていたが、無死満塁の好機に代打として起用されたからだ。放った打球は内野飛球。結果は出せなかったが、気持ちを切り替えた。「スタメンで試合に出たいと思うことはあったが、主将になった今はいかにチームを生かすかが大事だ」。試合前にも語っていた。 滋賀県甲賀市出身。野球ファンの家族に囲まれて育った。野球を始めたのも、幼い頃に祖母とテレビで米大リーグを観戦していたのがきっかけだ。小学生から本格的にプレーを始め、中学の時の大会で甲子園の打席に入ったこともある。 京都国際に入ったのは「この学校なら本気で野球ができる」と感じたから。レギュラー争いは厳しく、悔しい思いをしたこともあった。「心が折れかかっているのかな、と感じたことはあった」と母あゆみさん(42)。自分に何ができるのか悩んだ末、2年生になると「僕を主将にしてください」と小牧憲継監督に頼み込んだ。 例年は指導者陣で主将を決めるが「山口は人がしたがらないことを率先してする。チームメートに嫌われる覚悟で、言わなければならないことを言う勇気もある」と小牧監督。三塁コーチャーを任せるのも、チームを見る目があり、判断能力に優れているからだ。 「いつも通りプレーすれば、結果はおのずから付いてくる」と山口主将。久しぶりの聖地のグラウンドで、自分しかできないことはまだある。【中島怜子】 ……………………………………………………………………………………………………… 京都国際 0000003002=5 2000001001=4 柴田 (延長十回) (京)森下、平野―中川 (柴)谷木―舟山 ▽三塁打 武田(京) ▽二塁打 辻井(京)横山、沼田(柴) 〔京都版〕