「袴田さんが10歳若ければ控訴したはず」…死刑執行を防ぐ契機を作った世田谷区長が指摘する「検察のメンツ」
「10歳若けりゃ控訴した」
検事総長談話については「まさに検察のメンツ」と断じる。 「まさに検察のメンツ。裁判所が捏造としたことが気に入らない。検察は5点の衣類だけで有罪になっているわけではないとして他の要因も入り込ませた。『疑わしくは被告人を罰せず』の推定無罪の原則を全く逆にして『無罪を立証できなきゃ有罪』のロジックにしてしまった。袴田さんが10歳若ければ控訴したはずで、そこに根本的な反省はない。ただ、控訴すると検察批判が渦巻くことを恐れたのでは」(保坂区長) 控訴断念については「政治的配慮」もあるとみている。 「その配慮も自己防衛のため。『控訴したかったけどしないよ』という姿勢。静岡県警と検察はすり合わせたかのように巖さんを長く法的に不安定な地位に置いたことを反省してみせた。不安定どころか、いつ死刑執行されるかの状況に対する反省や検証はまったくない」(保坂区長) 保阪区長は当時、衆議院議員の国政調査権により袴田さんと会った。「当時は袴田さんの異常も『仮病ではないの』なんて言われていた。国会で選出される人は人権の問題にしっかり取り組んでほしい」と政治家らしく締めくくった。 NHKは10月12日朝、検察が事件の遺族に控訴断念を謝罪したというニュースを報じた。遺族が巖さんを犯人だと思い、検察が「袴田巖が犯人」と思わせているようにも取れる。だが、再審の終盤、検察が代読した遺族の思いに、巖さんが犯人といった記述はなかった。訴えていたのは、事件で唯一生き残った長女が事件と関係していかのように報じられ、苦しんでいたことだけだった。検察の「印象操作」をNHKがそのまま報じただけだった。
粟野仁雄(あわの・まさお) ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に『袴田巖と世界一の姉』(花伝社)、『サハリンに残されて』(三一書房)、『警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件』(ワック)、『検察に、殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)、『アスベスト禍』(集英社新書)など。
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