「四月大歌舞伎」愛之助が当り役、“浪花の侠客”団七を躍動感たっぷりに魅せる
新年度が始まり心浮き立つ4月、東京・東銀座の歌舞伎座では「四月大歌舞伎」が春らしい華やかさで上演中だ。 昼の部(11時開演)は、親子の情愛を描く名作『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓』から。仲秋の名月を翌日に控えた京都の家屋を舞台に、相撲取りの濡髪長五郎に尾上松緑、その母親・お幸に中村東蔵が扮し、義理と人情に挟まれた親子の苦悩を浮き彫りにする。お幸が後妻として嫁いだ夫の息子・南与兵衛に中村梅玉、その女房お早に中村扇雀と、舞台のすみずみまで名作の味わいが堪能できる布陣。月光が射し込む明かり取りの天窓(引窓)を使った演出も見どころだ。 続いての『七福神』は、今をときめく花形(若手)役者たちが、おめでたい七福神に扮して踊る舞踊。まず観ているだけで笑顔になるような恵比寿に中村歌昇。廓勤めをする傾城とその恋人という美しいカップルに模して踊るのは、弁財天の坂東新悟と毘沙門の中村隼人だ。祝儀の盃を重ねて踊りだしたり、うつらうつらしたりと、春らしいのどかさを醸し出す布袋の中村鷹之資や福禄寿の中村虎之介、寿老人の中村萬太郎も見逃せない。 さらに大黒天の尾上右近が宝の詰まった大袋を背負って立つと、観ているこちらも明るい気分に。最後は大きな宝船に花形の七福神が揃い、まさに新年度のスタートにふさわしい演目となった。 昼の部の最後は、こちらも名作の『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』。江戸時代の大坂で実際に起こった事件をもとに、当時の風俗や人情を織り込んで侠客の生きざまを描き出す人気作だ。 主人公は堺の魚売り、団七九郎兵衛(片岡愛之助)。泉州浜田家家臣玉島兵太夫の息子・磯之丞(中村種之助)と傾城琴浦(中村莟玉)は恋仲で、団七は、その琴浦に横恋慕している家中の大鳥佐賀右衛門(片岡松之助)の中間と喧嘩した罪で牢に入れられていた。兵太夫の尽力により出牢が叶った団七を、女房のお梶(中村米吉)と息子の市松(中村秀乃介)、懇意の侠客・釣船三婦(つりふねさぶ/中村歌六)は連れ立って出迎える。 再会を喜ぶ4人だったが、磯之丞と琴浦の危機を知った団七は、釣船三婦や義兄弟の契りを結んだ一寸徳兵衛(尾上菊之助)、その女房お辰(愛之助の二役)らと奔走する。そこへ佐賀右衛門の褒美の金目当ての舅・義平次(嵐橘三郎)が、琴浦を言葉巧みに誘い出し……。 愛之助は上方役者ならではの自然さで団七の上方言葉に愛嬌をにじませながら、同時に一本気な侠客ぶりを躍動感たっぷりに表現。高津宮の夏祭の熱狂を背景に、様式美と共に繰り広げられる壮絶な“殺しの場”まで、物語をグイグイと引っ張ってゆく。令和5年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している愛之助だが、受賞理由の1つが昨年博多座で演じた、この団七役。徳兵衛役の菊之助もその博多座からの続投で、立て札を使っての立廻りなど息の合ったところを見せる。 その立廻りに割って入り、徳兵衛を諭すお梶役・米吉の凛として強い表情、懐の深さと侠気に加えて艶のある佇まいが絶妙な釣船三婦役の歌六と、配役の妙も頼もしい。団七を執拗に責め苛み、泥にまみれて這いずり回る義平次の橘三郎も圧巻だ。琴浦役・莟玉の素直な可愛らしさ、髪結床の下剃三吉役・坂東巳之助のキビキビとした立ち居振る舞いも印象に残った。 夜の部(16時30分開演)は、四世鶴屋南北の『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり) 土手のお六/鬼門の喜兵衛』で幕を開ける。惚れた男のために悪事を働く“悪婆(あくば)”と呼ばれる役どころ、土手のお六を坂東玉三郎、その亭主で同じく非道な鬼門の喜兵衛を片岡仁左衛門という“ゴールデンコンビ”で贈る。 続いての舞踊『神田祭』もふたりが粋な鳶頭と芸者に扮した演目で、江戸情緒をたっぷりと。最後は中村芝翫、片岡孝太郎、松緑、菊之助、愛之助らが四季の移ろいを舞踊四題で綴る『四季』で打出しとなる。「春/夏/秋/冬」の4場面、さらにこれだけの役者が揃っての上演は貴重とのこと。明治・大正期の歌人として名高い九條武子作の繊細な筋立てにも注目したい。 取材・文/藤野さくら (C)松竹株式会社 ※無断転載禁止 <公演情報> 四月大歌舞伎 公演期間:2024年4月2日(火)~26日(金) 会場:歌舞伎座