【視点】総裁選 首相主導で沖縄振興を
自民党総裁選に立候補した9氏の沖縄政策は、どのようなものか。那覇市の演説会で、それをかいま見ることができた。 9人はかりゆしウェアを着て会場に現れ、壇上で熱弁を振るった。国政から手を差し伸べなくてはならない沖縄の課題は多岐に渡る。限られた時間で、候補者の政策がつまびらかにされたとは言えない。 とはいえ、候補者それぞれの「沖縄観」がうかがえたことは興味深かった。事実上の次期首相を選ぶ選挙で、沖縄での演説会が企画された意義は大きい。 県民にとっての最重要課題は沖縄振興だ。9氏からは県民所得向上、新たな特産品の開発、IT企業の誘致、離島空港の国際化といった、さまざまなキーワードが飛び出した。 小泉進次郎元環境相はライドシェア解禁による移動の利便性向上、基地に関する交付金活用を提案した。個人的な竹富島旅行の記憶を振り返り、離島への愛着も口にした。 加藤勝信元官房長官は振興予算の増額と基地の跡地利用を進めるゲートウェイ2050プロジェクト推進、茂木充敏幹事長は畜産業やサトウキビ産業の保護や増税ゼロの子育て支援に触れた。離島振興に強い意欲を示したのが小林鷹之前経済安全保障相で、離島に対する交付金の拡充に踏み込んだ。 「オール沖縄」県政のもとで国と県の関係が悪化し、経済環境の厳しさもあいまって沖縄振興の停滞感は否めない現状だ。首相がリーダーシップを取り、沖縄振興を強力に進めていく体制の構築に期待したい。 米軍基地問題に関しては、林芳正官房長官が普天間飛行場の確実な返還を訴えた。 異色だったのは石破茂元幹事長で、唯一、同飛行場の辺野古移設に触れ「十分に沖縄県民の理解を得て決めたかと言えば、必ずしもそうではなかった。安倍政権の幹事長だった私の責任は重い」と〝反省〟を口にした。日米地位協定の見直しも明言した。 上川陽子外相は米兵の性的暴行事件に言及し「性暴力は二度と起こさせないという厳しい姿勢で交渉に臨む」と強調した。 沖縄を取り巻く厳しい安全保障環境に関しては、河野太郎デジタル相が尖閣諸島と台湾有事を巡る懸念を取り上げた。河野氏は新型コロナウイルスのワクチン接種を巡り、石垣市の中山義隆市長と協力したことも紹介した。 高市早苗経済安全保障相は離島の県議から、有事の際、他国の標的になりかねない海底光ケーブルの安全性に関する懸念を提起され、さっそく対策に取り組んだと明らかにした。 演説会を通じ、候補者それぞれの沖縄に対する思いは伝わったが、知識や関心の濃淡が感じられたのも事実だ。沖縄への問題意識も異なる。「誰がなっても同じ」ではなく、誰が首相になるかで、沖縄政策に何らかの相違が生じるのは間違いないと思える。 米国で自民総裁選と同時進行している大統領選は、候補者2人の低レベルな罵倒合戦と化している。 選挙戦を見る限り、共和党候補トランプ前大統領の常識外れ、民主党候補ハリス副大統領の能力不足は隠しようもない。誰が大統領になっても米国は混迷するはずで、日米同盟を外交・安全保障の基軸とする日本にとっては正念場になる。次期首相の責任は重い。