『踊る大捜査線』はなぜ“映画”として特別なのか “テレビと同じ”だからこそ描けたもの
『踊る大捜査線 THE MOVIE』で特に注目してほしいポイント
また、サブタイトルとして付けられている『湾岸署史上最悪の3日間!』という部分からも分かるように、この『踊る THE MOVIE』で描かれるのは3日間という限定された時間のなかの物語だ。ある種の時間制限がここで課されることによって、自ずと物語の密度は高まる。もちろん映画作品である以上、作品尺は2時間少々。テレビドラマ版と劇場版に明確な違いがあるとすれば、もう登場人物や本店と支店の関係性なを紹介する必要がなくなっていることで、より“事件”の部分にフォーカスしやすく、全体的にタイトでスピード感のある作りとなり、その分、見せ場となるシーンの情緒も増幅するのだ。 最後にいくつかこの『踊る THE MOVIE』で注目してほしいところを羅列していくことにしよう。まずはテレビドラマ版の終盤でドラマティックに描写された銃器の存在が、スケールアップして然るべきこの劇場版においては一切登場しないこと。これは先述した通り“テレビドラマと同じことをする”ためのひとつの証左であり、中盤で日向真奈美(小泉今日子)が湾岸署に現れるシーンで手にしている銃も、コスプレ窃盗犯から奪ったモデルガンであるとすぐにわかる。 その日向をめぐっての後々の展開は『羊たちの沈黙』をそのままオマージュしており、同様にクライマックスでは“誘拐映画”の最高峰と呼ぶべき黒澤明の『天国と地獄』のオマージュをこれまた堂々とやってのける。そしてなんといっても、クライマックスシーンなどで映るお台場の風景。まだフジテレビが移転して間もない、いまとは比べ物にならない“空き地”だった頃の様子が、この映画には記録されている。シリーズを追うごとにお台場の街の進化と変容を見届けることができるというだけで、『踊る』は“映画”に必要不可欠な記録性が揺るがないのだ。
久保田和馬