長期的な会社運営の土台、「事業年度」と「公告方法」を決めるポイント【司法書士が解説】
株式会社は「事業年度」を基に決算を行い、その内容を「公告」しなければなりません。事業年度や広告方法は、定款の絶対的記載事項ではないものの、一般的には会社設立時に定められるものであり、会社の基本運営を支えるルールです。事業年度と公告方法を決める際のポイントや実務的な注意点、定款の記載例について、加陽麻里布氏(司法書士法人永田町事務所 代表)が解説します。
会社の経営リズムを決めるカギ、「事業年度」の設定
事業年度とは、会社の会計期間を定めるもので、一般的には1年単位で設定します。この期間を基に決算や税務申告が行われるため、適切な事業年度の設定は、会社の業務効率や経営管理に直結します。 【事業年度の設定ポイント】 1.業界の慣行を考慮 ・「同業他社と事業年度を揃える」という選択肢があります。 ・例えば、日本の多くの企業では「4月1日~翌年3月31日」と設定されていますが、IT企業や外資系では「1月1日~12月31日」が一般的です。 2.繁忙期を避ける ・業種によって繁忙期が異なるため、事業年度末を避けることで決算業務の負担を軽減できます。 ・例えば、小売業なら年末年始を避け、製造業なら年度末の増産期を考慮しましょう。 3.会計や税務の対応を意識 ・税理士や会計士のサポートを受けやすいタイミングに事業年度を設定することで、スムーズな業務が可能になります。 【事業年度に関する定款記載例】 「当会社の事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までとする。」 この記載により、会社の収支管理や決算作業のタイミングが明確になります。また、必要に応じて事業年度を変更することも可能です。
会社の情報公開のスタンスを示す「公告方法」の選択
公告方法とは、会社が財務情報や法的義務に基づく情報を外部に公開するための手段を定めるものです。会社法では、株式会社に公告義務を課しており、定款で公告方法を明記する必要があります。 【主な公告方法と特徴】 1.官報による公告 官報は国が発行する公的な機関紙で、公告方法として最も一般的です。 ・メリット:掲載コストが低い。 ・デメリット:閲覧者が限られるため、情報の到達力は低い。 2.日刊新聞紙による公告 全国紙や地方紙に公告を掲載する方法です。 ・メリット:官報に比べると購読者が多いため、広く知らせることが可能。 ・デメリット:1回の掲載で数十万円以上の費用がかかる。 3.電子公告 自社のウェブサイトで公告を掲載する方法です。 ・メリット:コストがほぼゼロで済む。 ・デメリット:決算公告は貸借対照表の全文掲載が必要となる(官報や日刊紙は要旨のみでよい)。また、決算公告は5年間掲載する義務がある。 【公告方法に関する定款記載例】 1.官報による公告 「当会社の公告方法は官報に掲載して行う。」 2.電子公告 「当会社の公告方法は、当会社のウェブサイトに掲載して行う。」 3.日刊新聞紙による公告 「当会社の公告方法は日刊新聞に掲載して行う。」 なお、電子公告とする場合はURLも登記されますので、設立登記申請までにURLの取得が必要となります。 【実務的な注意点:あとから変更も可能】 1.事業年度の変更 ・事業年度は、定款を変更することであとから変更可能です。株主総会の特別決議を経たのち、税務署や自治体への届出が必要となります。 2.公告方法の変更 ・公告方法も同様に、変更する場合は定款変更が必要です。特に電子公告を採用する場合、ウェブサイトの整備が必須となります。