震災から3度目、相馬野馬追を迎える人と馬の思い
福島県相馬地方の伝統行事・相馬野馬追が、7月27日から3日間にわたり行われる。福島県北東部に位置する中村神社、太田神社、小高神社の相馬三社が中心となるこの神事は、1000年以上の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。 3日間の主役となるのは、地元の人々と何百頭もの馬たちだ。なかでも野馬追のハイライトとなる、2日目の甲冑競馬(甲冑姿で馬にまたがり、約1000mのコースで速さを競う)と、神旗争奪戦(2本の御神旗を何百騎の人馬で争う)は、地元の人が愛馬と挑む、年に一度の晴れ舞台だ。 「野馬追が近づくと、いたる所で馬の路上調教を行っている人を見かけます。人馬とも一年ぶりの舞台ですから、お互いが思い出すように息を合わせていますね。甲冑競馬も1000m超ありますので、きちんと準備しないと人も馬もバテてしまいますから」(中村神社・田代麻紗美さん) 1000年以上続いてきた伝統行事は、相馬地方における人と馬との関係性を築き上げた。この地域では多くの人が愛馬を持っており、自分の馬で野馬追に参加することが、地元の人々の「粋」なのだという。そのような文化だからこそ、現JRAジョッキーの木幡初広騎手や、大井競馬に所属する兄弟ジョッキー、高野毅・誠毅騎手など、多くのホースマンがこの地から誕生した。 2011年の東日本大震災の際には、人と同様、馬たちの命も数多く奪われた。400頭近くいたこの地方の馬の約半数は、震災後に行方不明になってしまったという。しかしそのような悲劇の裏で、「新たな出会いもあった」と、田代さんは言う。 「震災後、現役を引退したサラブレッドを野馬追のためこの地方に譲ってくれるという方がたくさん出てきてくれました。つい先日も、閉鎖となった福山競馬場から、6頭ほどの“新顔”が相馬市・南相馬市にやってきたばかりです」(同) 中村神社にも多くの馬がおり、その中にはかつてG1レースで勝利した元競走馬もいる。2010年に、障害レースのG1・中山大障害を制したバシケーンがそれだ。田代さんによると「バシケーンは今年、出陣式の神馬(しんめ)として野馬追デビューする予定です」とのこと。 このように、他地域から馬を譲りうけたり借りたりすることで、今年の野馬追は、昨年から約30頭増えた430頭ほどの規模となりそうだ。600頭近くが参加した震災前には及ばないが、それでも地元の人々の熱意は変わらない。 「震災後の地域の状況はほとんど変わっていません。まだ避難している方はたくさんいますし、自分の馬を泣く泣く別の場所に預けている方も多数いらっしゃいます。かつての野馬追が、本当の意味で戻ってくるのはなかなか難しいかもしれません。それでも、『この地域は大変なことがあっても、野馬追を残している』というのが地元の誇りですし、その気持ちを少しでも子どもたちに伝えられればうれしいです」(同) 3.11以降、野馬追の持つ意味合いは、確実に変わったといえるだろう。地元の人々の胸中には、伝統や文化という言葉だけでは表せない、強い思いがあるはずだ。 震災から数えて3度目。今年も、相馬地方に夏の風物詩がやってくる。 (文責・河合力/競馬ライター)