各国間の温度差が目立ったG7財務相・中央銀行総裁会議:日本の為替介入の是非を巡る議論は回避
日本の為替介入は取り上げられず
その為替問題については、G7の直前までイエレン米財務長官が日本の為替介入を念頭に、「為替介入はまれであるべき」と否定的な発言を繰り返していた。為替介入を巡る日米当局間の軋轢は、いまや覆い隠しようがない水準にまで達している。 日本の当局は、今回のG7の場で、イエレン米財務長官が日本の為替介入を取り上げ、それをあからさまに批判することを恐れていたのではないか。そうなれば、日本の追加の為替介入実施は一段と難しくなるとの観測から、為替市場で円安が大きく進むきっかけとなった可能性も考えられる。 しかし実際には、そのような事態は起きなかった。鈴木財務大臣は、今回のG7会合の会期では、イエレン米財務長官との2国間会談は実施しなかったことを明らかにした。両国の対立を避けたのだろう。他方で鈴木財務大臣は、為替の過度な変動は経済や金融の安定に悪影響を与えかねないといった「為替に関するコミットを再確認した」と述べた。
1ドル160円前後まで円安が進めば再度為替介入か
実際、G7声明文には、前回4月と同様に、「我々は、2017年5月の為替相場についてのコミットメントを再確認する」との文言が、おそらく日本側の要請によって加えられた。 ただしこのコミットメントは、為替の変動が経済に与える悪影響を認めるだけでなく、政策による為替市場への影響についての問題も謳っている。この文言は、日本の為替介入の正当性をG7が認めたもの、との解釈にはならないだろう。 為替介入を巡る日米間の軋轢が表面化する中でも、日本政府は今後も為替介入を実施する可能性がある。円安進行が物価高を通じて個人消費を悪化させていることに対応することが、国内政治の観点から強く求められているためだ。 財務省の神田真人財務官はイタリアで、「過度な変動が投機などで発生して、経済に悪影響を与える場合には適切な措置をとる必要があるし、そのことは許されている」と述べ、為替介入に踏み切る正当性をアピールしている。 1ドル160円前後まで円安が進めば、為替介入が再度実施されると見ておきたい。その場合、最終的には1ドル165円を巡る当局と市場の攻防戦となるのではないか。 (参考資料) 「イタリア財務相「中国の報復も考慮」 過剰生産問題で」、2024年5月26日、日本経済新聞電子版 「G7、合意形成を優先 ロシア資産活用へ制度の議論継続」、2024年5月26日、日本経済新聞電子版 「中国の過剰生産、G7懸念 日本「過度な為替変動、適切に対応」 財務相会議閉幕」、2024年5月26日、朝日新聞 「G7、合意形成を優先 制度・手段は議論継続――過度な為替変動、悪影響を再確認 鈴木財務相」、2024年5月26日、日本経済新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英