アニメーター・坂本勝のトランスフォーマー愛が爆発!コラボポスターに込めた想いと、雨宮哲監督へとつながる“人生の分岐点”
「トランスフォーマー」シリーズすべての原点ともいえる、彼らの故郷であるサイバトロン星を舞台に、宿命のライバルであるオプティマスプライムとメガトロンの友情と離別を3DCGで描く『トランスフォーマー/ONE』(公開中)。本シリーズは、壮大な世界の広がりと数多くの魅力的なキャラクター、そして多くの映像作品が制作されてきた結果、多くの日本のアニメーションクリエイターが作品に関わり、クリエイター自身もシリーズのファンとなっている。 【写真を見る】アニメーター・坂本勝描き下ろし!よく見るとメガトロンの銃口がオプティマスを狙っている…? 今回、大の「トランスフォーマー」好きを公言し、本作のコラボポスター企画で日本代表としてイラストを制作した、アニメ制作スタジオTRIGGER所属のアニメーターである坂本勝氏(以下、坂本)にインタビュー!『グリッドマン ユニバース』(23)などでキャラクターデザイン&総作画監督と務めた坂本に、『トランスフォーマー/ONE』の感想から、イラストに込めた構図のこだわり、“好き”であることを大切にする坂本の「仕事術」までたっぷり語ってもらった。 サイバトロン星では、トランスフォームするロボット生命体トランスフォーマーが暮らしている。変形能力を持たないオライオンパックス(のちのオプティマスプライム)とD-16(のちのメガトロン)は固い友情で結ばれ、ヒーローになることを夢見ていた。ある日、謎のSOS信号を発見した2人は、エリータやB-127(のちのバンブルビー)と共に侵入禁止の地上世界へ。そこで惑星を揺るがす陰謀と敵の存在を知った彼らは、変形能力を授かり、強大な敵に立ち向かおうとする。 ※本記事は、『トランスフォーマー/ONE』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■「アニメーターとしての感覚を活かした形で、表現したいという想いがありました」 坂本と「トランスフォーマー」の出会いは幼少期まで遡る。当時は自身が持っていた様々な玩具のなかの一つであり、実はそこまで思い入れはなかったそう。しかし、2014年公開の『トランスフォーマー ロストエイジ』をきっかけに、再び「トランスフォーマー」の玩具を手にしたことから、いまに続く“熱“へと変化したと説明する。 「10年ほど前に、友人がたまたま『ロストエイジ』の玩具を買っていたんです。『クラシックオプティマスプライム』という、初期のアニメシリーズのデザインに近いオプティマスだったんですが、それを見た時に懐かしいという気持ちと『いまの玩具はどんな感じになっているのか?』という興味が湧きました。ちょっと見せてもらって、実際に動かしてみたりすると、昔と比べて変形機構などがすごく進化していておもしろかったんです。そこから急に気になり始めて、『ロストエイジ』を劇場に観に行ってテンションが上がり、玩具もいろいろと買い漁るようになった感じですね。気がつけば、1年ぐらいで『トランスフォーマー』の玩具が100体くらいになっていて(笑)。幸いにも周りに『トランスフォーマー』好きが多くいたので、なんの玩具を買えばいいかオススメを聞きながら集めることができて、そこからどんどん好きになっていった感じです」。 その後、公開される劇場作品や過去の映像作品などに触れる形で、シリーズの知識と玩具のコレクションを増やし続けてきた坂本。今回制作した『トランスフォーマー/ONE』コラボポスターでは、本編では3DCGで描かれていたキャラクターたちが、TRIGGERのアニメーション特有の躍動感のあるポージングとパース感が強めの構図が印象的な仕上がりとなった。このポスターイラストはどのような想いを持って描かれたのだろうか? 「イメージとしては、公式が出されるキービジュアルとはちょっと違う、CGキャラとは異なる味を出せたらいいなと考えていました。それこそ僕はアニメーターなので、アニメ側の感覚を活かした形で『トランスフォーマー/ONE』を表現したいという想いが最初にあり、CGでは表現しづらいパースの歪みや勢いのよさを出させていただきました。構図やポージングに関しては、どうしようかといろいろと悩みつつ、いくつかラフを描いて決めていきました。キャラクター同士の関係性にもっとスポットを当ててもいいかなと考えてもいたんですが、実際にラフを描いてみると画的にちょっと大人しい部分感じがあったりもして悩みましたね。そんななかで、ポスターとして目を引くような勢いがあって、キャラクターたちのチームワーク感を出したいと思い、完成版となった4人で戦っているシーンをイメージしたものになりました。映画を観ながら、最終的には敵になってしまうメガトロンが、オプティマスの仲間として心を共にして戦っているところがよかったので、そこを描きたかったというのもありました」。 坂本は、普段はキャラクターデザインを主に手掛けているため、人物キャラクターの静かな立ち姿みたいなイラストを描くことが多く、なかなかメカニック周りを描くチャンスがなかったそう。「今回のポスター企画で描くにあたっては、『メカ好きですけど、自分が描いていいのかな?』とちょっと戸惑いもありましたが(笑)、すごく楽しくて描かせてもらいました。こういう形でメカの画を描くのは楽しかったので、関わらせていただいて本当によかったです。実現性とか考えない希望を言うなら、自分で描くこのテイストで、『トランスフォーマー/ONE』から派生するショートムービーみたいなものはやってみたいと思ったりもしました」。 一目見ただけではわからないちょっとした“こだわり”も、イラストのなかに込めている。「画としてはチームワーク感を出してはいるんですが、実はメガトロンの左腕の銃口がオプティマスの頭に向けられているという構図になっているんです。それはこのあとの展開へのちょっとした匂わせというか、不穏な感じを示唆できたらなと思いながら描きました」と、構図に隠された小ネタを解説してくれた。 ■「『コグ』で変形能力を手に入れて新しい力に目覚めるシーンは特に興奮しました」 そんな想いを込めてイラストを描いた坂本。制作のためにいち早く観た『トランスフォーマー/ONE』はかなりお気に入りの1本になったと熱弁するが、実は観る前の段階では、作品の仕上がりに若干の不安もあったそうだ。 「舞台が地球ではなくサイバトロン星と事前情報で見て、『(人間のキャラクターがいなくて)共感できるのかな?』と思っていたところもありました。さらに僕自身は、司令官としてのオプティマスプライムが大好きだというのもあって、オライオンパックスと呼ばれている若々しい時代は、ちょっと頼りないなと感じたりもしていたんです。ただ、オプティマスとメガトロンが一緒にいて、コンビを組んで戦うという予告を観て、そこからすごく興味を惹かれました。過去のメガトロンを見ることができるということと、仲が良かった彼らがどのように一緒に戦って、関係が変わっていくのかが気になりました。実際に本編でも、2人の変化がおもしろいポイントでしたし、大好きな1本になりました」。 本作は、「トランスフォーマー」の時系列的に最初のエピソードであるため、シリーズの知識がない人たちでも迷わずに観ることができる作品になっている。その一方で、作品世界を知っていれば知っているほど、「こんな要素を出してきたのか!」と感心するようなポイントが多数存在している。「トランスフォーマー」ファンの坂本ももちろん、そうしたディープな要素にも大きく反応している。 「トランスフォーマーたちの原点には、プライマスという根源的な存在がいて、13人のプライムがいるということはこれまでのシリーズで断片的に描かれていたので、『トランスフォーマー』の創世記みたいな説明が入るところから始めるのには驚きました。ストーリー全体の展開のさせ方がすごく上手くて、どこも飽きさせない感じもすばらしかったです。オライオンパックスたちが下層の作業ロボットとして採掘作業をしていて、物語は彼らがどんな状況に置かれているのかという世界観を示しつつオライオンパックスの人物像がしっかり描かれていて、そこからレースで振り回されるD-16とのバディ感にワクワクして、地下に地上に場面が変わっていってと展開の一つ一つが予想がつかない感じで進んでいく。さらに変形に必要な『コグ』が出てきて、変形能力を手に入れて新しい力に目覚めるシーンは特に興奮しました。 トランスフォーマー初期の話には欠かせないクインテッサ星人の存在が語られたり、マトリクスはどこにあるのかと、細かいネタが盛り沢山と言えるほど散りばめられていて、それを105分のなかにキッチリと入れ込む形で作られているのがよかったです。のちにメガトロンの仲間になるスタースクリームたちが、オプティマスの仲間になるところもグッときましたね。その後を知っていると、彼らはオートボットとディセプティコンに別れて戦う関係になるわけですが、そんな彼らが敵対する前に手を組んで、一つのことを為そうとするところは本当に熱かったです」。 ■「作り手視点で言うと、想像してない展開を見せてほしい」 胸躍る展開、マニアも唸るようなネタの数々。予想を超えた展開を見せてくれた『トランスフォーマー/ONE』は、ファンでなくても続編を期待せずにはいられない要素もあふれている。そこで坂本に、「トランスフォーマー」ファンだからこそ観たい、本作の“妄想続編”を教えてもらった。 「今回はオプティマスとメガトロンの関係を中心にしていたので、世界観を構成する重要な要素としてクインテッサ星人は登場していましたが、まだ決着はついていないので、ここは続編で観たいですね。それから、センチネルプライムの側近として、蜘蛛型の女性キャラであるエアラクニッドが登場していたんですが、そうなるとインセクトロンという昆虫型の第3勢力も多分存在しているんだろうなとか。合体戦士のスペリオンやデバスターの変形合体、そして、いままで実写映画では匂わせで終わってしまってたユニクロンを出してほしいし、冒頭で高位存在として登場したプライマスも描かれていたので、ユニクロンとプライマスの戦いは是非観たい…という感じですね!妄想はこんな感じですが、作り手視点で言うとこれら超えた想像してない展開を見せてほしいです(笑)」。 ■「『トランスフォーマー』から受けた“好き”という要素は、これからも大切にしていきたい」 そんな坂本にとって「トランスフォーマー」の存在は、“趣味”をきっかけにしながらも、自身の“仕事”にも多くの影響を与えているという。なかでもTRIGGERで共に仕事をしてきた雨宮哲監督とは、「トランスフォーマー」をきっかけに、関係性が大きく変化したと話す。 「僕は『トランスフォーマー』を好きになったおかげで、結構仕事の幅が増えた部分があるんです。『SSSS.GRIDMAN』で一緒にお仕事をさせていただいた雨宮さんは先輩だったのですが、実は最初のころは話すきっかけがなく、自分が『トランスフォーマー』にハマったのがきっかけでよく玩具の話をするようになり、そういった流れで企画会議とかにも参加させていただいたりと、『トランスフォーマー』が縁で『SSSS.GRIDMAN』のキャラクターデザインができたという部分もあると思います。『トランスフォーマー』は、大好きな作品というだけではなく、ある意味“人生の分岐点”でした」。 「トランスフォーマー」好きと公言し広がることで、新たな仕事へと繋がったと話す坂本。その熱いシリーズへのリスペクトは、自身の作品づくりにも影響を与えているという。「『トランスフォーマー』に限った話ではないですが、好きなものやテーマがないと漠然としてしまって無味乾燥なものができてしまうんですが、そこに自分の好きなものや興味のあるものを変換して取り入れる事によって引っ掛かりや縛りができて、つくるものに味が出てくるんです。『トランスフォーマー』から受けた“好き”という要素は自分のなかでも大きく影響してるので、これからも好きなものや興味があるものを大切にしていきたいですね」。 最後に、今回のイラストポスター企画や40周年記念スペシャルムービーで、「トランスフォーマー」に興味が出てきているであろう、TRIGGERファンやアニメファンに向けて、『トランスフォーマー/ONE』の魅力を語ってもらった。 「普段TRIGGERの作品を見ている方たちは、アニメ作品は大好きながら、『トランスフォーマー』関連作品はあまり観てないんじゃないかな?と思うんです。でも、僕や雨宮さんにとっては、『トランスフォーマー』から得た知識や発想は作品づくりのなかにそのエッセンスが多分に含まれていて、アイデアソースの根幹という部分として存在しています。『トランスフォーマー/ONE』はこれまでのシリーズを観たことがない人でも触れやすい作りになっているので、ぜひ僕たちが好きなものを観て、なにか感じてもらえるといいなと思います。 一方で、ロボットしか出ていない、人間のキャラクターが一切登場しないという部分では特殊な作品でもあるんですが、『トランスフォーマー』をちゃんと観たことがなくとも知っている人が多い、オプティマスとメガトロンの関係性の話はものすごく楽しめる要素だと思うので、そこに注目する形でぜひ入門編として観ていただければと思います。そして、そこから『トランスフォーマー』にハマってもらえるとうれしいですね」。 取材・文/石井誠