歴史的な衆院選 選挙戦から見えてきたもの
警視庁によりますと、これまでの国政選挙とは比べ物にならないほどの警察官が警戒・警備にあたったということです。人員だけではなく、防弾用の板や防弾マット、さらに、不審なドローンが近づかないように妨害電波を発する機材も用意されました。自民党本部に火炎びん、総理官邸に車が突っ込む事件があってからは、警察庁から全国の警察本部に対し、警備のさらなる徹底を図るよう緊急の指示があったということです。 安全第一を期すために集った警備関係者の尽力には頭が下がります。ただ、物々しい警備体制のため、遠巻きに演説を見ようとしても、「立ち止まらないで」と言われる有様。ゾーンに入る人はもともとの支援者、動員をかけられた人も多く、候補者陣営の中には「本当は街ゆく人に声を届けたいのだが」とぼやく声も聞かれました。
「練り歩き」と言われる選挙活動は、通称「桃太郎」とも呼ばれます。のぼりを持ちながら、商店街を歩くというような姿がその所以ですが、ある候補の練り歩きでは、警備上の問題を理由に、メディアの同行が禁止されました。また、沿道に待ち構える聴衆に“グータッチ”をして歩く姿は、コンサートの握手会かと見紛う雰囲気でした。黄色の規制線のテープが、候補らが歩くのに合わせて、警察官がずらしていく様子は、異様でした。 厳しい警備が選挙にどのような影響を与えたかはわかりませんが、このような街頭演説自体が選挙手法として、もはや「曲がり角」にきているのかもしれません。折りしもアメリカでも大統領選挙が大詰めですが、あのような大規模集会のような形も将来、日本にも導入されてくるのかもしれません。もっとも日本は大統領制ではありませんし、そうした大規模な集会が日本の政治風土に合うのかというと、それはまた別の話ですが……。 ◇ ◇ ◇ さて、今後は特別国会で、誰が首班指名されるかが最大の焦点になります。石破総裁は投開票日翌日の記者会見で、「国民の批判に適切に応えながら、現下の厳しい課題に取り組み、国民生活と日本を守ることで職責を果たしたい」と述べ、続投の考えを示しました。自民党はなりふり構わない「帳尻合わせ」に走りそうです。裏金関係議員の当選者の追加公認はもちろん、政界で「寝技」といわれる、保守的な考えを持つ議員を引っ張り込むことも予想されます。ただ、裏金関係議員の追加公認については「結局、裏金問題は終わっていない」というそしりは免れず、納得のいく説明が必要になるでしょう。 15年前の政権交代と大きく違うのは、どこも過半数を取った政党がないということです。立憲民主党が政権を取るとしても連立が必要になる…自公以外となると、共産党が政権の中枢に参画する可能性が出てくるわけです。事の良し悪しはさておき、日本の国のカタチが変わる可能性もあります。立憲民主党は政権交代へ野党結集を目指しますが、連立の枠組みについて、難しい選択を迫られることになります。 政策や法案ごとに連携する「パーシャル連合=部分連合」の声も聞こえてきます。パーシャルというと、昭和生まれの世代はどうしても冷蔵庫のCMを思い出してしまいます。まさに「時代はパーシャル」なのか……。 現状維持か、政権交代か、漂流か。11月中旬開会といわれる特別国会に向けて、与野党で水面下の駆け引きが続きます。 (了)