<南アフリカ>シエルターの老人 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
老人は、ただだまって椅子にすわっていた。 ヨハネスブルグ郊外にあるホームレスシェルターには仕事を失った労働者やその家族200人あまりが暮らしていた。住人はすべて白人。アパルトヘイト撤廃後に急増したプア・ホワイトとよばれる人々だ。施行された黒人雇用優遇政策が理由の一つだった。 「写真を撮ってもいいですか?」 尋ねた僕に、老人はぼそぼそと答えたが、僕には理解できなかった。彼が話したのはアフリカーナの言語であるアフリカーンスだった。それでも拒絶するようにはみえなかったので、僕はゆっくりと持ち上げたカメラを彼に向けた。老人の年齢はわからなかったが、どうみてもアパルトヘイト全盛の時代を生きてきたことは間違いないだろう。社会的に優遇されてきた白人の彼が、年老いた今、一人ホームレスシェルターで暮らしている。 老人は何も言わず、ただドアの向こうにある「何か」を見つめ続けていた。 (2002年2月)