派兵された北朝鮮軍、何事にも長じ虚虚実実を具現【コラム】
[チョン・ウィギルの世界、そして]
ウクライナ戦争に派遣されたといわれる北朝鮮軍は、敵を欺くあらゆる軍事戦略と戦術を具現している。西側と韓国のメディアが伝えるニュースによると、だ。 西側と韓国のメディアが伝える、ウクライナ戦争に派遣された北朝鮮軍を描いてみよう。彼らは10月初め、北朝鮮の元山(ウォンサン)や清津(チョンジン)からロシアの軍艦に乗って沿海州地域に向かった。陸路や鉄道を利用せず、あえて西側の衛星に探知されうるロシアの軍艦を用いたのは、これ見よがしに派兵を誇示するために違いない。 彼らは沿海州のあるロシア軍の訓練場で、不明な言葉で騒ぎながらロシア軍の補給品を受け取り、訓練を受けているように思われたが、ウクライナ戦線ではすでに北朝鮮兵が戦死し、脱走も発生している。彼らは沿海州からクルスクまでは陸路を用いたという。今回は西側の衛星に探知されないよう、陸路を用いたということだ。沿海州からクルスクまでは、陸路で行けば数日はかかる。そして、すぐに戦闘に投入されている。鋼鉄の体力を持つ兵士に違いない。 公然と戦線に投入されたかと思えば、徹底して隠されたりもする。北朝鮮の国旗(人民共和国旗)を掲げ、北朝鮮軍の制服を着て戦闘に臨んでいる。はためく人共旗がウクライナ軍にとらえられ、奪取されている。だが、自分たちの正体を隠すために、ロシア国内のモンゴル系ブリヤート住民に偽装した「ブリヤート特殊大隊」として編制されてもいる。 弾よけに送られたとみられる20歳前後の新兵だが、あらゆる特殊訓練で鍛えられ、こう着した戦線を突破されない強大な戦力でもあるとウクライナと西側は語る。40人が戦闘に投入されて1人しか生き残れず、前線に落とされた彼らは後方に逃げるロシアの装甲車に付いていって逃げたりもする。しかし、北朝鮮軍の多くは依然として兵営で金日成(キム・イルソン)と金正恩(キム・ジョンウン)の肖像を前にして精神教育を受ける余裕も見られるし、流ちょうな中国語も駆使するエリートたちだ。 これを機として、北朝鮮とロシアの親善も深めている。前線で生死を心配すべきロシア兵たちは、派遣された北朝鮮兵とコミュニケーションを取って親交を深めようと、ソウルことばのハングル教本を熱心に学習する。北朝鮮兵たちは「ヌロンイケゴギ(黄犬肉)」という商標の犬肉の缶詰と牛肉がたっぷり入ったカップラーメンを食べて、Kフードの新たな章を開いてもいる。 最も恐ろしく脅威を感じるのは、戦闘の参加が予測できない幽霊のような存在だということだ。ウクライナのルステム・ウメロウ国防相は5日になってようやく、韓国放送(KBS)のインタビューで北朝鮮軍との「小さな関与」があったと語った。「関与」を「全面的な交戦ではなく小規模な接触に過ぎない」と親切に説明している。39人の戦友が戦死し、自分は死体に隠れて生き残ったという北朝鮮兵の訴えを映した動画が報道されている。戦死した北朝鮮兵と彼の身分証を写した写真は、北朝鮮軍とのそのような「関与」の結果だとみられる。もちろん、米国防総省のパトリック・ライダー報道官は4日、北朝鮮軍の戦闘参加に「関する報道を見ているが、報道内容が正しいかは確認できない」と述べている。 以上は、ウクライナ戦争に派遣されたとされる北朝鮮軍のニュースを伝えた西側と韓国のメディアの報道を総合し、若干の解説を加えたものだ。ソーシャルメディアなどに上がっているウクライナと韓国の匿名の当局者や「専門家」の発言や動画、写真は、西側と韓国のメディアにそのまま「事実として報道」された。すると、これらの内容は権威あるメディアが伝えた事実となる。例えば、リトアニアにあるウクライナ出身の反ロシア団体が最初に主張した「戦闘に投入された40人の北朝鮮兵のうち1人だけが生存」というニュースは、「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」で改めて報道されたことで、RFAが取材した事実として韓国メディアに伝えられる。 ウクライナは北朝鮮軍の派遣と参戦を積極的に広める。その理由は、ゼレンスキー大統領の発言によってあらわになる。彼は、派遣された北朝鮮軍は脅威だと述べつつ、先制攻撃が行えるよう、西側が支援した長距離兵器でロシア領内を攻撃することを認めるよう要請する。西側がこれを認めれば、西側の人材がウクライナに公式に派遣されなければならない。もちろん、韓国の兵器支援や軍事人材の派遣も催促しうる。 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権はウクライナと歩調を合わせる。与党のハン・ギホ議員は「ロシアに派遣された北傀(ほっかい)軍部隊をウクライナに爆撃させ、心理戦に利用しよう」とシン・ウォンシク国家安保室長に提案した。ついに4日には40人の北朝鮮兵の死を韓国の当局者が確認したという報道が出た。韓国政府内でもきまりが悪かったのか、翌日にはある情報関係者が「北朝鮮軍は戦闘をしていないのに、どうして死者が出るのか」と語ったという。 北朝鮮軍派遣のニュースはウクライナで火がつき、韓国が増幅させていると思っていたが、突然、北朝鮮の宣伝扇動ではないかという疑念がわいた。でなければ、結果的にであれ、北朝鮮軍をあのように何事にも長じ、虚虚実実を具現し、正体がつかめない脅威の軍隊として描くことができるだろうか。 チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )