激闘王・八重樫が逆転TKOで引退か世界かの究極の選択マッチを制す!
史上最高のノンタイトルマッチの名に恥じない激闘は紙一重の勝負でもあった。 試合後、八重樫はKOラウンドを「8ラウンド」と間違うほど。向井は、眉間と左目上に大きな絆創膏を張る応急処置を受けた。 大阪帝拳から大橋ジムに移籍した中澤奨の試合を次男のボクサー、寿以輝と共に見にきた元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎が言った。 「キャリアの差やな。八重樫君は勝ち方を知っている」 3階級制覇した八重樫は過去に世界戦を13試合も経験している。対して向井もシーサケット・ソールンビサイ(タイ)戦など世界戦を2度戦い、タイ、香港と海外のリングも経験してきたが、修羅場の数の差は歴然だった。勝利を手にしかけながら後一歩をつめ切れなかった向井と、その一瞬の空白を見逃さなかった八重樫。八重樫陣営の松本好二トレーナーは、途中、強引な前進を止めて距離を変えた八重樫の対応力を「八重樫が感性で変えた。でも、あの距離で、途中やったことが6ラウンドの右のカウンターにつながったと思う」と逆転劇の背景を説明した。 大橋会長は「感動しました」と頬を緩ませ八重樫の凄まじい練習量を称えた。 「もうレジェンドなんだから、常に1試合、1試合が、負ければ最後という戦いになる。だから、悔いのないように八重樫らしくいってもらいたいと試合前にラインをした。清水もそうなんだけど、2人の練習量が凄い。真面目で、あそこまで自分を追い込む姿は見たことがない。年齢がいくと練習量は落とすものだという観念を吹き飛ばした。今、八重樫は、キャリアで一番練習しているんじゃないか。大橋ジムの若い選手が、それを見ている。彼らはそういう選手にとっての鑑となっている」 35歳。過度なフィジカルトレーニングで腕の筋肉に炎症を起こし肘が曲がらなくなったこともあったという。それでも八重樫は「量をこなさないと質も伴わない。これまで1やって避けられたパンチが避けられないのであれば10やらないとダメ。そのおかげで自分自身に伸びシロを感じるし、やることがまだまだあると感じる。やることがなくなったら終わり。僕なんかまだまだ」と、独特の哲学を語った。