「金融システムをめぐるショックは、常に宴の後にやってくる」。ハイリスク・ローリターンの資産構成になった日本の金融機関が恐れる事態とは?
「バリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 【写真】ハイリスク・ローリターンの資産構成になった日本の金融機関が恐れる事態とは 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 11年に及んだ異次元緩和は市場機能にさまざまな副作用をもたらした。日銀が市場金利を無理やり抑圧した煽りを食ったのが、都銀や地銀などの金融機関だ。異次元緩和によって、日本の金融機関の利ざやは軒並み縮小して収益力が低下した。それを補うために、やむなくハイリスク・ローリターンの投資を行った結果、その財務体質は脆弱なものとなった。「金融システムをめぐるショックは、常に宴の後にやってくる」と言われる。弱体化した日本の金融システムは、バブル崩壊時のような予期せぬ株価暴落や急激な金利の変動に耐えることができるのだろうか? ※本記事は山本謙三『異次元緩和の罪と罰』から抜粋・編集したものです。
弱体化した金融システム
異次元緩和は、金融機関経営に二つの重荷を背負わせた。 一つは収益の低下だ。預金金利がゼロ%に張り付く一方で貸出金利の低下が続いたため、銀行の基本的な収益源である総資金利ざやはゼロ近傍まで縮小した。総資金利ざやとは、貸出金や有価証券の利息などを指す「資金運用利回り」から、預金金利や経費などの「資金調達原価」を差し引いたものをいう。金融機関は経費の圧縮で対抗したが、それでも収益は大幅に減少した。 もう一つは、収益の低下をカバーするために、超長期の債券や外国債券、投資信託、J-REITなど、よりリスクの高い投資へと向かわざるをえなくなったことである。結果的にハイリスク・ローリターンの資産構造(高めのリスクと低めの収益率の組み合わせ)が定着し、多くの銀行で、内外金利や株価、不動産価格の変動に対して脆弱な構造ができあがった。 異次元緩和の当初、日銀は金融機関に対し厳しい姿勢をとった。2016年4月の定例記者会見では、黒田総裁は「金融政策は、金融機関のためにやっているものではなく、日本経済全体のためにやっている」「金融機関が賛成するか反対するかで、金融政策を決めることはない」と述べている。 発言を文字通り受け止めれば、その内容は間違いではない。しかし、銀行は金融市場で貸し手と借り手をつなぐ役割を担っている。もし仲介役の体力が弱まれば、金融市場の機能は低下してしまう。そうなれば、金融政策の効果も弱まらざるをえない。そうした全体観のもとでは、なかなか出てこない発言だった。 実際、その後金融機関の仲介機能は弱まり、日銀自身も金融システムへの配慮を強めざるをえなくなった。2021年以降、金融政策決定会合に対する執行部からの報告に、金融システム情勢に関する報告が付け加えられた。前章で述べたボルカー元FRB議長の「金融システムの機能停止こそが真のデフレをもたらす」との見解に照らしても、欠かせないピースだっただろう。 注目点は、第1に金融機関収益の低迷によって、金融システム全体として金融仲介機能が低下していないか、第2に過度の金融緩和が、金融機関に過度のリスクテイクを促し、金融システムを不安定化させる恐れはないか、の2点である。後者は、過去、バブルの発生と崩壊で苦い経験をしている。
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