アメリカで話題の“身近なヒーロー”が繰り広げるドラマとリアルな描写にくぎ付け<9-1-1 LA救命最前線>
アメリカで大ヒットシリーズとなっているドラマ「9-1-1 LA救命最前線」のシーズン7が6月5日より配信スタートした。アメリカ・ロサンゼルスを舞台に緊急救命の最前線で活躍する人々に焦点を当てた本作。物語は基本的に1話完結が多いのでどこからでも入れるといえばそうなのだが、登場人物たちの特徴や関係性によるドラマは知っておいたほうがよいところでもある。そこでシーズン7からでもすぐに楽しめる、これまでのポイントと魅力を解説する。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】消防士にぴったりなガッチリ肉体美!若手スターとして活躍するオリヴァー・スターク ■「9-1-1 LA救命最前線」とは 日本では事件や事故などが起きた場合にかける電話は、「110」が警察、「119」が消防や救急車となっているが、アメリカでは「911」が緊急通報ダイヤルとして集約されている。連絡を受け取った指令室は、警察・救急・消防と連携し、事件・事故を最前線で対処するのだ。 本作では、その最前線で活躍する“ヒーロー”たちの奮闘と日常を描く。 高校の合唱部を描いて社会現象にもなったミュージカルドラマ「glee/グリー」などハリウッド屈指のクリエーターであるライアン・マーフィー氏が企画・製作総指揮・脚本を手掛け、出演は映画「TINA ティナ」(1993年)、「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」(2022年)などのアンジェラ・バセット、主にテレビドラマで活躍するピーター・クラウス、本作で注目若手スターの仲間入りしたオリヴァー・スタークら。 アメリカのテレビネットワーク・FOXで2018年1月にスタートしたシリーズ1は平均で1400万人以上の視聴者数を獲得し、一躍大ヒットシリーズに。そんな中、2023年放送のシリーズ6で終了することが伝えられた。ところが、同時に2024年にシリーズ7がテレビネットワークの老舗ABCでスタートすると発表。局を変えてのシリーズ存続はまれで、高視聴率を誇る人気作だけにファンは歓喜した。報道によればリアリティーある描写などによる製作費の高騰が要因にもなっているようだが、局を変えての英断がされるほどコンテンツが魅力である証だ。 ■圧倒的な描写力で事件・事故を描き、その背景も映し出す 先述した製作費がかかる件は、本編を見れば一目瞭然。扱う事件・事故は、交通事故や家庭、会社でのものから、自然災害まで実に幅広く、驚くほどバラエティーに富んでいる。クラッシュした車や火事、銃撃、水難事故など救出シーン、そして一刻を争う中で傷病者を手当てするシーンはリアルに満ちていて、時に目を背けたくなるほどだ。 また、高速道路でのカーアクションもあるし、シーズン2では地震、シーズン3では津波の大規模な自然災害を再現した様は大迫力で、圧倒的な描写力を感じる。 そんな事件・事故のシーンが1話で1件以上描かれたり、急を要するだけに消防士たちが段取りよく対応していったり、テンポのよさで引き付けられていく。そこに、その事件や事故の背景、過程もちゃんとあらわになるので、起こり得ることとして身につまされたり、教訓として覚えていようと思える説得力がある。YouTuberの無謀な挑戦による事故や、シーズン4ではコロナ禍と、“今”が描かれるのもリアルだ。 ■仲間たちの心強い存在、警察官のアシーナと消防署隊長のボビー 登場人物たちが人命を救う緊迫感あふれる様子を捉える一方で、彼らが抱えるプライベートな悩みも浮き彫りにして、深みのある人間ドラマが展開する。この人物だけは押さえておきたい主要キャラ6人を紹介していこう。 アンジェラ・バセット演じるアシーナ・グラントは、ベテラン警察官。強引な時もあるが、強く、優しく、冷静に事件を見つめ、解決へと導いていく。私生活では娘と息子の母であり、長年連れ添った建築家の夫がいるが、その夫から実はゲイだと打ち明けられ、やがて離婚する。シーズン6では、幼少時に近所で起きた少女の行方不明事件と向き合うことに。 ピーター・クラウス演じるボビー・ナッシュは、ロサンゼルス市消防118分署の隊長で、所属する消防士たちを率いる頼りになる存在。料理が得意で、分署で部下たちに振る舞うことも多い。だが、かつてアルコール依存症で自分の過失から暮らしていたマンションで火災を起こし、妻子を含む148人の死者を出してしまった。やり直そうとロサンゼルスに移り住み、仕事をこなす一方で、大きな罪の意識にさいなまれていたが、周囲の支えで前に進み始め、のちにアシーナと結婚する。 ■物語を熱くする消防士&指令室オペレーター ボビーの元で働く若手消防士エヴァン・バックリー(オリヴァー・スターク)は、通称バックと呼ばれている。序盤に女性関係でクビになりかけるも、年上の9-1-1オペレーターであるアビー・クラーク(コニー・ブリットン)との恋愛で変化。ただし、アビーとの恋はシーズン1でほぼ終了した。消防士としては頑固で突っ走るところがあるが、人一倍熱い思いを抱いている。シーズン2の終わりで大けがを負い、シーズン3では抗血液凝固剤を服用しなければならなくなったことで現場復帰できず、それでも消防士に戻りたいと市と消防局を訴える行動に出てしまうこともありつつ、復帰して活躍を続けている。 同じく118分署に勤める“ヘン”ことヘンリエッタ・ウィルソン(アイシャ・ハインズ)は、救命士&消防士。もともと製薬会社の営業だったが、直接人を救うべく転職した。私生活では、同性愛者で女性パートナーと結婚し、元恋人が生んだ男の子を育てている。現場で傷病者と向き合う中で救命士としてできることの限界を痛感したことで、医者を目指してメディカルスクールに入学し、消防の仕事と学業を両立しようと挑む。アシーナとは頼り、頼られる仲。 救命士&消防士としてヘンの相棒であり、親友のハワード・ハン(ケネス・チョイ)は、コリアン系でチムニーという愛称で親しまれている。シーズン1の第3話で、恋人へのプロポーズに失敗し、ボビーと口論したいら立ちから車を飛ばしていたところ事故に遭い、トラックの積み荷の鉄筋が後頭部から額にかけて突き抜けてしまったが奇跡的に助かり、後遺症もなく現場復帰した。 そのチムニーと恋仲になっていくのが、シーズン2から登場するマディ・ケンドール(ジェニファー・ラブ・ヒューイット)。暴力的な夫から逃げてきて、弟バックの勧めで9-1-1のオペレーターになる。オペレーターとしての初日に地震が発生し、通報が殺到する中、元看護師の知識も生かしながら対処していく。夫とのことはシーズン2終盤でチムニーにも被害が及ぶ衝撃的な展開を迎えるが、チムニーと仲を深め、子どもが生まれる。 マディと同じシーズン2から118分署の消防士として仲間入りしたエディ・ディアス(ライアン・グスマン)。元軍の衛生兵で医療の知識があり、すぐに活躍していくことで、“先輩”であるバックは初めこそ脅威に思ったが、仲を深める。脳性まひの息子を1人で育てており、別居していた妻と関係を修復しようとしていた矢先、彼女が交通事故で他界。その事故現場に出動したエディは最期を看取った。 ■絆が深まった登場人物たちの新たな物語に期待 事件・事故の最前線で命を救う警察官、消防士、オペレーターたちは、市民から“ヒーロー”と呼ばれるそうだ。本作での活動を見れば納得でき、頭が下がる思いだ。日本ではシステムが違うため、オペレーターの存在が分からない方もいるかと思われるが、不安でいっぱいの通報者を落ち着かせ、的確に警察官や消防士を導く力量は本当にすごい。だが、本作では彼らにも悩みや葛藤などがある様子は人間味にあふれ、私たちと同じなのだという面を見せるのがポイントでもある。 悩みに共感し、理不尽なことに直面する様子に憤る。そんな中で彼らが立ち上がり、ヒーローたる職務をまっとうする姿に力づけられてきた。 シーズンが進むごとに笑ったり泣いたりしながら築き上げられてきた絆で、きっと新シーズンもさまざまなことを乗り越えていってくれるはず。チームワーク以上に、家族のように支え合ううらやましいほどの仲がまた見られるのだ。彼らならきっとやってくれるというカタルシスは変わらず続く。 シーズン2にあったバックのせりふ「俺たちは物語じゃない。終わりそうな物語を終わらせないために存在する」というのは、象徴的かもしれない。「9-1-1―」の物語は、まだまだ終わらないのだ。 「9-1-1 LA救命最前線」は、ディズニープラスのスターで全シリーズ配信中。シーズン7は、現在毎週水曜に1話ずつ最新話が配信されている(全10話)。 ◆文=ザテレビジョンドラマ部