2度目の人生(11月6日)
江戸時代の伊能忠敬は人生を2度生きたと評される。傾きかけた豪商の入り婿となり、家業を立て直した。村の名主も務め、飢饉[ききん]が起きれば、私財を投じて、苦しむ村人にコメを配ったと伝わる▼当時は「人生50年」。忠敬は50歳になるのを境に、家督を息子に譲った。江戸に出て、かねて興味を抱いていた天文学と測量術を本格的に学び始める。第二の人生での功績は多くが知るところだろう。17年かけて日本中を測量して歩き、73歳で亡くなるまで日本地図の作製に心血を注いだ▼「定年退職後も働きたい」という願いを、シルバー人材センターが受け止める。会員に提供している仕事は、庭の除草や植木の剪定[せんてい]から、スマートフォンの操作支援や駅スタッフ、役場の受け付け業務まで幅広い。昨今は介護や子育て支援の仕事も積極的に引き受けている。高齢化や共働き、核家族の増加を背景に、人手が不足している分野で力を発揮してもらう狙いがある▼今は「人生100年時代」。2度目の人生を意気に感じ、はつらつと汗を流す姿は輝かしい。全国を行脚し、後世に残る大仕事を遂げた偉人に習い、先達の皆さんは生き方の末永い地図を後進に指し示してくれている。<2024・11・6>