映画『型破りな教室』学ぶ喜び、知る喜びに目覚める子どもの姿に感動
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Navigator ●折田千鶴子さん 映画ライター 『ホワイトバード はじまりのワンダー』『海の沈黙』のパンフに寄稿。こちらも必見作です。ぜひ!
『型破りな教室』
学ぶ喜び、知る喜びに目覚める子どもの姿に興奮必至の感動作 今も昔も学校で“人気の先生”は当然ながら存在する。教え方がうまい先生、優しい先生、厳しいけれど人気のある先生など、小さな子どもでも上辺だけか、本当に本気なのかの嗅覚は鋭い。特に本作の舞台のような荒れた環境であればあるほど、いい先生に巡り合えるかどうかで、その後の人生が大きく左右されるとあらためて目を見張らされる。サンダンス映画祭で観客賞を受賞した、観る者を惹き付けてやまない本作は、なんと実話がベースというから驚く。 メキシコ国境近くの危険地域、マタモロスの小学校に、フアレス先生が赴任し、小6クラスの担任に。生徒たちが登校すると、机と椅子が教室の端に詰まれ、床の上で先生が待っていた。驚く生徒たちに先生は、「これは救命ボート。君たちは23人だがボートは6艘。さてどうする?」と問いかける。みんな唖然とするが、諦めない先生にみんなも考え始める。次の日も、また次の日も、先生はいろんなことを問いかける。すべてを諦めたようだった生徒たちは、「ボートはなぜ浮くのか」と、自ら探求するように。しかし多くは進学どころか、通学さえままならない。さらに全国共通テストで全国最下位続きだったため、不正に入手した問題を使って学校平均を上げるよう求められるが、フアレス先生は断固拒否。ついに噂を聞きつけた汚職まみれの教育委員長が、学校にやってくる。 形ばかりで子どものことを考えない官僚や大人に、怒りが湧き上がる。しかし最初は引きぎみだった生徒たちが、少しずつ目をキラキラさせ、自ら考え、行動し、討論する姿に高揚せずにいられない。サラリと数学の難問を解く少女パロマの才能に先生が気づく瞬間は、まるでダイヤの原石を見つけたような興奮も。それを余計なことと責める、屑拾いで生計を立てる父親の想いにも胸が詰まる。一方、兄と同じギャングの仲間になる予定だが、勉強に喜びを感じ始めた少年の運命や、哲学に興味をもち始めた少女が、妊娠した母親から休学を迫られるキツさにはため息が止まらない。可能性のかたまりみたいな子どもたちの運命の分かれ道に、終始心が揺れ動く。なんと子どもたちはみなプロの俳優ではなくほぼ地元の子で、演じる役と境遇が近い子を選んだという。それ自体も衝撃的だが、あの目の輝きは本物だったのかと、腑に落ちてより感慨も深くなる。 さて現実でも、フアレス先生によって好奇心に火が付いた子どもたちの学力は飛躍的に上昇、なんとクラスの10人が全国上位0・1%に食い込んだ(実在のパロマに至っては全国1位)という。教えるのではなく問いかける、先生の促し方にも感心しきり。周りの大人が与えてくれなかったもの――自己肯定感や学ぶ喜びや希望が、いかに子どもたちの未来を輝かせるのか。ラスト、フアレス先生の涙ながらのスピーチに熱くなり、もはや落涙を免れない。先生役は『コーダ あいのうた』の音楽教師役エウヘニオ・デルベス。 ・12月20日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 ・公式サイト あり 【その他3作品のレビューはLEEwebで】 CULTURE NAVI「CINEMA」から