『moon』が発売された日。…それもラブ…これもラブ。勇者に倒されたアニマルの魂を救う“アンチRPG”【今日は何の日?】
※本記事は、2023年10月16日にアップした記事を再編集したものです。 胸に響く「もう、勇者しない」の言葉 【記事の画像(12枚)を見る】 いまから27年前の1997年(平成9年)10月16日は、アスキー(当時)からプレイステーション(PS)用ソフト『moon』が発売された日。 なぜ勇者はモンスターを倒すのか、なぜ勇者は人の家のタンスを勝手に開けてアイテムを盗っていくのか……。本作『moon』は、それまでのRPGの基本概念に真っ向から異を唱えた“アンチRPG”。その謳い文句に見るRPGへの反骨精神もさることながら、独特の風合いのあるグラフィックと魅力的な世界観で多くのユーザーを虜にした。かく言う筆者もそのひとりで、26年間ずっとマイベストゲームである。 物語の舞台となるのは、主人公がオープニングでプレイしているゲーム“ムーンワールド”。ひょんなことからこの異世界へとやって来た主人公は、勇者に倒された何の罪もないアニマルの魂を“キャッチ”して救ったり、住人たちの生き様に触れて“ラブ”を集めたりしていくことになる。 ムーンワールドは時間と曜日の概念が存在し、その流れの中で住人はそれぞれの生活を営んでいる。たとえば、城下町でバーを経営するワンダは、昼は寝て夜はバーを切り盛り。お城の王様は、午前中は庭で鳥ちゃんへの餌やりをして午後は謁見タイム。衛兵のイビリ―は週に3回ほど夜になるとワンダの店へ足を運ぶ……といった感じ。 住人ひとりひとりをじっくり観察していくと、やがてラブの獲得に繋がるエピソードに触れることになるのだが、それがほっこりする内容もあれば、現代社会に対する毒っ気をぐつぐつと煮込みつつもユーモラスに味付けした内容のものもあり、思わずハッとさせられる。 本作の“アンチ”という文句は、RPGだけでなく現代社会の様相に対するものでもあると思う。音楽を愛するバーンのギター練習、フレッドの睡眠不足の理由、王様と大臣が進める計画の裏側、風車庵のおじいちゃんの怒り、エコ倶楽部の活動、山猫軒でアルバイトをするクリスの夢……。どんなエピソードもかわいらしいグラフィックと世界観を通して描かれているから、プレイヤーとしてはとても受け取りやすいし、小さな世界で懸命に生きている住人たちがとても愛おしくなる。 主人公がラブを獲得して大人の階段を少しずつ上がっていくように、プレイヤーもいっしょに成長をしているような感覚を味わうことができるのだ。 ラブを集めてレベルが上がると、画面左上に表示されている“アクションリミット”というゲージが少しずつ伸び、活動できる時間が増加して行動範囲が広がっていく。とはいえ、時間が経過するまでその場で待機することもしばしば(待機していても何も起こらないこともあるのだが、それはそれで楽しい)。 そんな暇潰しにピッタリなのが、“MD(ムーンディスク)”という音楽が入った小さなディスク。ジャンルはロック、テクノ、アンビエント、三味線……と多岐にわたり、手に入れたMDを好きな順番でプログラムしてBGMとして流すことができる。音楽そのものはもちろん、MDのパッケージも素敵で、MDを販売するバーン堂でジャケ買いをした人も多いのでは? 2019年10月10日には、Nintendo Switchで移植版が発売。それまでは廉価版が発売されることがあっても移植はなかったので、多くのファンが歓喜したはず。さらに、2021年12月16日にプレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、PCでも移植版がリリースされた。全機種で“ピクセルくっきり機能”が追加アップデートされており、ブラウン管時代とは違った味わいも楽しめる。267を経ても色褪せない『moon』の世界を、ぜひ一度、あるいはふたたび訪れてみてはいかがだろうか。 ※画面はNintendo Switch版のものです。