「あ~どすこい」相撲甚句「初夢でヨ~」 かけ声で調子、観客と一体に 長崎
「明けてうれしや初夢でヨ~」「あ~どすこい、どすこい」。拍子木が打ち鳴らされ、力強くも伸びやかな声が響く。大相撲の地方巡業などで力士が披露する唄「相撲甚句」。長崎市相撲甚句会は60~80代の15人が集い、和気あいあいと楽しんでいる。稽古をのぞいてみると、魅了される理由が見えてきた。 昨年12月下旬の午後6時過ぎ、稽古場所の市立諏訪小(諏訪町)に会員が集まってきた。中央に置かれたおやつの蒸し芋を囲み、世間話に花が咲く。10人ほどそろったところでようやく稽古が始まると、表情が一変し、真剣モードに。 相撲甚句は歌詞が七五調で伴奏がないのが特徴。地方の郷土文化や世相、季節などを題材に「前唄」「後唄」「本唄」「はやし」の順番でうたう。「どすこい」「ほい」といったかけ声で調子を取り、観客と一体となって盛り上がる。 腹から声を出すため、ハンカチを口にくわえた腹式呼吸のトレーニングや「あえいうえおあお」の滑舌練習は欠かさない。一通り発声練習をした後は一人ずつ順番にうたう。「あ~間違えた」「よかよか!」。失敗しても明るく励ましアドバイス。八幡敏夫会長は「同じ唄でも人によって味わいが違うのが良い」と魅力を語る。 自分で歌詞を作って楽しむこともできるといい、同会発足時の1996年から所属している同市深堀町1丁目の中島みさよさん(76)は、世界平和を願う唄「長崎物語」を作った。中島さんは「自分で唄を作って友達にプレゼントするのもいい」とお勧めする。 同会はお年寄りに人気でデイサービスや老人会、地域の祭りなどに引っ張りだこ。県警が同市内で実施したイベントでは「ニセ電話詐欺」に注意を呼びかける甚句を披露した。江戸時代から続く伝統芸能で同様の会が全国にあるため、年々新たな唄が生まれるという。それならばと、「新年を祝う唄をうたってくれませんか」と記者がお願い。すると二つ返事で承諾し、そろいの法被を着て新年の唄「賀正」を披露してくれた。後唄を担当した同市式見町の林速人さん(71)は「声を出すと健康にもなる」と楽しげ。 豊富な唄数と独特の節回し、うまい下手は関係なく腹の底から思いっきりうたえること。魅力が分かった気がした。帰り際、会員の一人が記者の上着のポケットに何かを突っ込んだ。帰って開けてみると、アルミホイルで包んだまだほんのり温かい焼き芋だった。こうした優しさも、会員の皆さんが集う理由かもしれない。