特集「キャッチ」福岡大空襲から79年 少年から家族を奪った戦争 亡くなった語り部の思いを伝え続ける
【家族5人の亡きがらと対面】
別の防空壕に身を潜め、見回りに出ていた父と一緒に翌朝、自宅に戻った時、家族5人の亡きがらと対面しました。 ■泰助さん 「あの光景はいまだに忘れられない。母親の顔は真っ黒焦げ。おばあちゃんも。きょうだいの顔は、母親に抱きついていたから、顔はきれいにしていたけど。」 圓應寺からの依頼をきっかけに、悲痛な記憶を人前で語り初めて10年あまり。樋口さんは患っていた肺の病気が悪化し、2023年11月、息を引き取りました。85歳でした。
この日、圓應寺ではことしの慰霊祭に向けた打ち合わせが行われていました。 ■舞台監督・井口紀子さん(54) 「2ページ目の『B29がゴンゴンなって』、樋口さんの言葉で私が聞いたものを極力残そうと思っていて。」 福岡市を拠点に活動する舞台監督、井口紀子さん(54)は生前の樋口さんから直接話を聞き、朗読劇を書き上げました。ことしの慰霊祭で上演し、樋口さんを追悼します。
■井口さん 「一個だけ変えてもらいたいのが『よかけん』の言い方。」 表現に悩んでいたのは、家族の遺体を運ぶ直前、樋口さんの父が何かを前掛けでくるみながら発した 「よかけん」という一言です。
■俳優・大谷 豪さん(54) 「家族がみんな死んで、その家族を自分の手で運ぶ時に『何してるの』と言われて出る『よかけん』というのが、体験したことないし、家族が死んで自らの手で運ぶというのも体験したことがないし。」 前掛けでくるまれていたのは、臨月だった母のそばで息絶えた生まれたばかりの赤ちゃんだったことを、樋口さんはあとになって知ったといいます。 ■井口さん 「あの場にもし自分がいたらとか自分の子どもがいたらとか、置き換えて見るというだけでも、全然違ってくる。」
16日、圓應寺で執り行われた福岡大空襲の慰霊祭。参列したおよそ30人を前に、樋口さんの経験を基にした朗読劇が上演されました。 ■大谷さん 「私(樋口さんの父)は妻の遺体からエプロンを外すと、小さな娘を丁寧にくるみ、母親の懐にそっと入れました。『何しようと?』 息子(樋口さん)が背後から尋ねました。『よかけん。』 妻とばあちゃんと4人の娘を乗せて、大八車を引きました。」 1人の少年から家族を奪った悲惨な戦争の記憶は、平和がいかに尊いものかを訴えかけます。