根絶したマングースよりはるかに脅威…奄美大島の希少種を襲うノネコ 専門家は訴える「外来種問題にもっと関心を」
鹿児島県の奄美大島で特定外来生物マングースの根絶が宣言された。かつて数多くの研究者が「根絶は不可能」との見方をしていた中、実現に至ったのは捕獲専門チーム「奄美マングースバスターズ」の貢献が大きい。その軌跡を追い、マングースの教訓を考える。(連載「マングース根絶 奄美の挑戦」㊦より) 【写真】外来種問題の脅威を語る環境省の阿部愼太郎さん(右)=3日、奄美市名瀬の市民交流センター
「ハブの天敵」ともてはやされて持ち込まれ、奄美大島の生態系に大打撃を与えたマングース。人々はなぜその危険性に気づけなかったのだろうか。 1980年に奄美に移り住み、40年間ハブの研究をしてきた農学博士の服部正策さん(71)は「世間の外来種に対する意識が希薄だった」と当時を振り返る。マングースを見かけても「爆発的に増えるとは思わなかった。自分を含め、研究者も住民も楽観視していたと思う」。 環境省奄美群島国立公園管理事務所の阿部愼太郎・国立公園保護管理企画官は、奄美の民間研究所に勤めていた80年代後半、農業被害を聞いたのを機にマングースの影響調査に乗り出した。在来種を脅かす存在と分かり行政に駆除の必要性を訴えたが、反応は鈍かったという。 そのため、本格的な駆除開始は2000年と対応が遅れた。阿部さんは「当時の機運を考えると仕方がないが、早く動いていれば労力も犠牲になった生き物も抑えられた」と悔やむ。
■ ■ ■ 「繁殖力が強く、マングースよりはるかに大きな脅威」。奄美市名瀬の自然写真家常田守さん(71)は、野生化した猫(ノネコ)の危険性を訴える。奄美では00年代から、島固有の希少種を捕食する猫の存在が浮かび上がった。 幸いにもマングースが持ち込まれなかった徳之島では、代わりに犬猫被害でアマミノクロウサギが減ったとされる。本年度はすでに8匹が犠牲になった。15年度から取り組む捕獲事業によって回復が見られることからも、猫の影響は大きいと考えられる。 奄美では環境省と地元自治体が18年度、ノネコの捕獲・譲渡に着手。24年8月までに671匹を捕まえ、作業範囲を広げた本年度は過去を上回る勢いだ。同省の担当者は「捕獲は順調だが、森林で繁殖したり、放し飼いの個体がいたりと、いたちごっこが続いている」と語る。 ■ ■ ■ 奄美市でマングースの根絶が宣言された3日、同省はカエルや猫といった他の外来種対策に探索犬を応用させる可能性を示した。マングース捕獲専門チーム「奄美マングースバスターズ」の後藤義仁さん(49)は「やってみないと分からないが、臭いさえ覚えれば可能だ」と話す。奄美で積み上げた知見は、新たな脅威を乗り越える助けになると期待される。
奄美の森には大型の肉食動物はハブしかいない。外敵に襲われる恐れがほとんどなく、クロウサギといった貴重な固有種が生き残った。裏を返せば、ひとたび外来種が入れば絶滅の危機と隣り合わせとも言える。 本格的な駆除から四半世紀、総事業費35億円-。膨大な予算と年月を要したマングース事業は、外来種問題の根深さを浮き彫りにした。世界自然遺産に登録され、外来種問題への意識がある程度醸成された今も「第二のマングース」予備群はすぐそばにいる。 常田さんは「根絶はゴールでない。教訓を胸に他の外来種にも全力で取り組まなければならない」と強調する。奄美の挑戦は続く。
南日本新聞 | 鹿児島