ブラザー工業が撤退見込みのローランドDGを巡る「TOB競争」 DG側に立ったファンドのCEOが意義を語った
私は交渉の場にいなかったので、開示された内容から想像するしかないが、過度な説明を求めていたという印象はない。 印刷機の基幹部品(インクジェットヘッド)の主要サプライヤーに今後の取引に関する考えを確認するなどして、ローランドDGがディスシナジーについて具体的な説明をしていた以上、ブラザーも具体的で真摯な説明が必要だったのだろう。 また、そもそも経産省の指針をしっかり理解する必要がある。指針は、株主価値(株主共同の利益)をしっかり検討するように求めているが、企業価値がどうなってもいいとは言っていない。
「両方大事だ」「両方しっかり検討しなさい」というのが経産省の指針で、そこは日本らしさを打ち出したところだと理解している。ローランドDGの取締役会として、企業価値に深刻なダメージを与える懸念を確認するのは当然だ。 ――ブライアンさんにはブラザーの対抗TOBがどのように見えていたのでしょうか。 「現金を十分に持っているからいくらでも出せる」とブラザーが考えているように正直感じた。ブラザーに限らず、企業価値を上げることなく現金をただ貯めている大企業は多いが、(十分に現金があるから高い金額でも出せるという)その判断にはリスクがある。
ブラザーがローランドDGに何か悪いことをしようとしているとは全然思っていない。ただ、2つの懸念点があった。 1つ目は、過去にこの2社は両社にとってプラスとなる取り組みを検討したものの、私の知っている限りでは大成功とはいえない結果に終わったこと。2つ目は、ディスシナジーをどうすれば解決できるかについて具体的な返事がなかったことだ。 ブラザーに買収されれば主要サプライヤーとの関係が変わってしまい、ローランドDGの事業の継続性自体に疑問符がつく。またローランドDGの労働組合の調査によれば、9割に近い従業員がブラザーによる買収に反対の意思を示した。社員が逃げてしまう頭脳流出が起こる危険性もあった。