総裁選出馬に黄色信号 麻生副総裁の「岸田切り」に現実味
今月12日、岸田文雄総理はイタリア南部のプーリアで開かれるG7サミット=主要7カ国首脳会合に出席するため総理官邸を後にした。会合にはウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領も招待された。 岸田「ゼレンスキー大統領との会談を通じて、永続的な平和の実現に向けたウクライナの取り組みを国際社会として支持をする。こうした姿勢を示す機会としたい」 出発に際してそう意欲を示した岸田だが、心中はおだやかではなかったはずだ。 自民関係者「岸田さんはイタリアへ出発する前に麻生さんと会食をするべく、段取りを進めていました。例の政治資金規正法改正案で公明党や維新の要求を丸呑みしたことで、麻生(太郎)さんがお冠だったことを気にしていたのです」
「麻生さんは本当に怒っている」
この後半国会の最大の焦点である政治資金規正法改正案の与野党協議で、岸田は公明党が求めるパーティ券の購入者公開基準を「5万円以上」とすることを決めた。 自民党は「10万円以上」を求めていたことから大幅譲歩となる。また使途が不明朗等とこれまで批判されてきた「政策活動費」については、日本維新の会の求めを受け入れて10年後に公開することを決めた。いまやお家芸と言っても良い岸田の“独り決め”がまた行われた格好だ。 公明党案を岸田が受け入れようとした先月末、自民党副総裁の麻生は茂木敏充幹事長を伴い、岸田と都内のホテルにある日本料理店で会食し、公明党に譲歩しないように求めたという。 しかし、いったんは逡巡したものの岸田は、麻生・茂木の進言を受け入れず公明だけでなく維新の求めにも応じることを決めた。 自民関係者「麻生さんからすれば、1月の岸田さんの派閥解散表明からずっとコケにされているわけですから、心中はおだやかではないはずです」 公明、維新案の丸呑みを決めた直後、永田町では“麻生が本当に岸田に怒っている”という話が広がった。そして麻生本人が強烈なメッセージを岸田に放った。 麻生「政治資金の透明性を図ることは当然だが、同時に将来に禍根を残すような改革を我々は断固避けなければならない」 今月8日、麻生は地元福岡で一連の政治資金規正法の与野党の協議について“将来に禍根を残す”と釘を刺した。上川陽子外務大臣への“おばさん”発言など失言が目立つ麻生だが、これまで自分の上司にあたる総理=自民党総裁への批判は一切控えてきた。その麻生が公然と岸田の対応を批判したのだ。この麻生発言の直後、岸田は水面下で麻生との手打ちのための会食を打診した。 日程はイタリアに旅立つ前日の11日が有力視されていたが、実現しなかった。関係者への取材によれば麻生サイドが“いま岸田とメシを食っても何も進展しない”としてやんわりと断ったと言うことだ。麻生との距離が生じたことは9月の自民党総裁選挙で再選を目指す岸田にとっては深刻な問題だ。 岸田にとって麻生との良好な関係を維持することが政権運営のため必須条件だった。党内の第4派閥の会長に過ぎなかった岸田は、第2派閥の領袖・麻生と、麻生との連携をポスト岸田への近道とする第3派閥の茂木幹事長を含めた三頭政治を構築することで、政権の安定的な運営が可能となっていた。 しかし1月の突然の派閥解散宣言で三頭の1人の茂木が離れ、公然と総裁選に向けた動きを見せる中、岸田としては何とか麻生を自分の側に止めておく必要があったのだ。 麻生周辺は「麻生さんは、今回は本当に怒っている」と語る。岸田にとっては厳しい課題を突きつけられたことになる。