「天皇の生前退位」皇室典範の規定は? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
●「皇室典範」で規定されていること
便宜上、1889年の方を「旧皇室典範」、1947年に制定された現行を「現皇室典範」とかき分けて考察してみます。「旧」の方は明治憲法(大日本帝国憲法)と同格の最高法典であるのに対して、「現」は日本国憲法が最高法規であり、皇室典範といえどもそれに従う他の法律と同等です。つまり国会の議決によって改正できます。 「現」典範では、皇位継承順位について「皇統に属する男系の男子」に制限し、順番は(1)皇長子(天皇の長男)、(2)皇長孫(天皇の長男の長男)、(3)その他の皇長子の子孫(天皇の長男の次男など)、(4)皇次子とその子孫(天皇の次男とその子孫の男子)などと定めています。現在にあてはめると、(1)皇長子が皇太子さま、(2)と(3)がいなくて(愛子さまは女性なのであてはまらない)、(4)の皇次子が秋篠宮さまで「その子」が悠仁さまとなります。 一方、皇族は天皇の親族を指し、女性も含まれます。男性は天皇直系の子(大正天皇の子である三笠宮さまと昭和天皇の子の常陸宮さま、今上天皇の子である皇太子さまと秋篠宮さま)と孫(悠仁さま)が「親王」で、ひ孫とその後の代が「王」(現在はいない)。女性は天皇直系の子(愛子さまと秋篠宮家の眞子さまと佳子さま)と孫(現在はいない)、ひ孫とその後の代が「女王」(現在4人)。および男性皇族の妃(配偶者)です。皇后、皇太后(先代天皇の妃)と太皇太后(先々代天皇の后)も含まれます。現在は美智子さまのみです。天皇および皇族以外と結婚した女性皇族は身分を離れます。一方で皇族の夫を亡くした後も妃は皇族に留まれます。天皇、皇后、皇太后、太皇太后は「陛下」、他は「殿下」の敬称で呼ばれます。 天皇が崩御すると葬儀にあたる「大喪の礼」が行われることになっています。国(内閣の主催)の儀式です。その後、新たな天皇が皇位継承したら即位の礼を行います。最近では昭和天皇の大喪の礼(1989年)を覚えている方もいるでしょう。何しろ1927年の大正天皇の崩御の時以来で、資料が十分そろっているとはいえず、また天皇の地位が旧憲法とは異なるので、どうしていいのか分からず関係者も、それを取材する記者も駆け込みで勉強したものです。例えば棺を納めた輿を当時担いだとされた「八瀬童子(やせどうじ)」はどこにいるのか、いたとして同じような形式で踏むべきなのかなどなど。 「旧」と「現」の違いは、先述した法的地位以外にもあります。例えば元号(現在は「平成」)は、「旧」では明記されていましたが、「現」では消えています。その間に存在した「昭和」は慣習で使い続けられ、1979(昭和54)年の元号法によって再び法律上の定めを得たのです。古代から天皇の正統性を担保するとされてきた「三種の神器」も、「旧」では次の天皇が「祖宗ノ神器ヲ承ク」とハッキリ書いていたのが、「新」ではなくなりました。