人との距離感や頼り方に悩んでいる人へ。心理カウンセラーに聞く生きづらさを解消する思考法
機能不全家族で育った、いわゆるアダルト・チルドレン(AC)であった、心理カウンセラーの池田由芽さん。池田さんの著書『メンタル“ヤバめ”をやめられる本 「今日も自分を大切にできた」と思える心理学』(大和出版)では、池田さんが自身の内観を通じて発見した、子どもの頃の願いである「第0感情」を満たすことで、生きづらさや悩みを解消していく手法が書かれています。本書に関連して、人に甘える方法や、人間関係がつらくならないようにするコツなどをお伺いしました。 <写真>人との距離感や頼り方に悩んでいる人へ。心理カウンセラーに聞く生きづらさを解消する思考法 ■「甘え方」がわからないなら? ――甘えられない親の元で育つと、人の頼り方がわからないまま大人になる人もいると思います。 甘えられない人は甘え方を知らないのですよね。自分はどう甘えてみたいのか、どうしたら楽になるのかを考えることから始めてみてください。 たとえば何かストレスに感じている作業があって、サボりたい・休みたいという思いを持っている。それならば、本当はどうしたいかを自分に問いかけてほしいです。 「締切まで少し時間があるから、今日の午後は休む」など、自分の中で少し「自分を甘やかす」ことにトライしてみるのもいいでしょう。本当は自分はどうしたかったか、自分の欲しいものがわかると、自分を甘やかせるようになりますよ。 そして人にお願いできるようにもなります。相手にお願いするためには、自分が何に不満を抱えていて、どうしてほしいかを理解する必要があるからです。 ――自分を甘やかすことに罪悪感を覚えてしまう場合は、どうしたらいいでしょうか? 罪悪感も一つのネガティブ感情なので、「どうして自分を甘やかすことに罪悪感を抱くのだろう?」と徹底的に迎えに行ってあげてください。 「だって、親はずっと私に頑張れって言ってきて、怠けたらあとで痛い目を見るよって教えられてきたから。親にがっかりされるのも、失敗するのも嫌だから、頑張り続ける必要があった」「頑張り続けて、親に認められたかった」そんな言葉が返ってくるかもしれません。 とにかく自分に厳しい人は、親からの教えで自分に鞭を打ち続けることが多いです。親からの愛を獲得するために、必死に自分に鞭を打っている自分がいるんです。そういう自分を抱きしめてあげて「守ってくれてありがとう。でも本当は疲れたでしょう?」と聞いてあげてほしい。自分を責める気持ちに耳を傾けてあげると、引っ張り合いをしている「厳しい自分」と「甘えたい自分」がだんだんと統合されていきます。 ■近すぎるから人間関係はつらくなる ――人間関係がつらくならないためのコツを教えていただけますか。 本書では距離感・課題の分離・境界線と書いていますが、これらをまとめると「マイテリトリー」です。第0感情(※)が満たされていない人は、キャパシティを超えて頼み事を引き受けてしまい、突然我慢の限界を迎えてしまうことが多いんです。 ※第0感情:子どもの頃の「願い」。心理学でいう第一感情・第二感情のさらに奥にあることを池田さん自身が発見。承認の欲求・自己実現の欲求・他者貢献の欲求の3種類がある。もっと詳しく知りたい場合は、インタビュー前編をご覧ください。 なので、まず私の領域の中にあっていいものと、いけないものを決めてみてください。人間関係だったら、「押しつけがましくない、寄り添ってくれる人がいい」とか。あらゆる場面で自分にとって許容できる人や環境、反対に不快なことや傷つくことも箇条書きしてみてください。そうすると自分の境界線が形になり、境界線が明らかになれば、人間関係で悩みにくくなります。 人間関係の悩みはコミュニケーション不足だと思いがちですが、私は近すぎることが原因だと思います。なので、離れたり線を引いたりすることが対策として有効です。私は人が近すぎるから都会が苦手で、今は自然がいっぱいある地域に住んでいます。 ――地方の方が人間関係が密なイメージを持っていました。 自治会的な地域の繋がりはあるのですが、私は自分がいらないと思ったものは、「私が関わらない方があなたにもメリットがある」とプレゼンする形で伝えてお断りしました。 たとえば回覧板が負担だなぁと感じたときは、「仕事の関係で回覧板に気づきにくくて、後ろの人に迷惑をかけちゃうことがありますので、飛ばしていただいた方がみなさんもスムーズになると思いますいかがでしょうか」と。このような伝え方で相手を不快にさせず、自分にとって不要なものを抜けています。 地方でも都会でも何かしらの摩擦は生じますが、上手く距離を取る方法を身につければ、人間関係の悩みを減らして暮らすことは可能だと思います。 ――はっきり伝えないと理解してもらえないこともあると思いますが、どんな伝え方がおすすめでしょうか? 「腹が立った」「嫌だった」というネガティブ感情は、伝えにくいですし、呑み込みがちですよね。上手に伝えるコツとしては、第0感情に着目したコミュニケーションをとることです。 「これが嫌だった」と言われると、相手は責められたと思ってしまうのですが、みんなにとってのメリットに自分の願いをプラスして「このようにするとみなさんも楽になるかと思いますが、こうさせていただでもよろしいでしょうか(もしくは、こうしていただくことはできますか)」と伝えると受け取ってもらいやすいです。私はどうしたいか・どうありたいかを自身で感じとり、感情ではなく「願い」を提案ベースで伝えることをおすすめしています。 ■大人になってから親と向き合うには…? ――生きづらさや悩みには家庭環境が大きく影響していて、第0感情は子どもの頃の願いであるとのことですが、大人になってから親と向き合うことは可能でしょうか? 親に伝える選択もありますが、理解してもらえないことは少なくありません。私も自分がACだと気づいたときに、母親に「これが嫌だった」と溜めていたものを全部ぶつけたのですが、母はキョトンとしていて「やってあげたのに、お前は感謝が足りない」と怒っていて、全然話が噛み合わなかったんです。「この人に理解してもらうのは無理」と思い、泣いて帰ってきました。それでも、親に気持ちを伝えることを目的とするならば、伝えるのは個人の選択です。 理解し合いたいのであれば、「私はお母さんとこういう関係を結びやすかったよ。だから今度こういうふうにしてみない?」といった形で、第0感情で提案すると、親も受け取りやすいとは思います。でも子どもの立場として、「今までつらい思いをしてきたのに、なんで親に提案までしてあげなきゃいけないんだ」という気持ちになるのであれば、無理して向き合う必要はないと思いますよ。 ――確かに、子どもの頃にしてほしかったことを、大人になった自分が親にしてほしいかというと、それは違うなと思いました。 子どもの頃は親にしてもらいたかったことでも、今親に抱っこされて「いいこいいこ」されたいわけではないですよね。今の私ではなく、自分の中にいる子どもの頃の自分が「認めてほしい」と言っているのです。 親を介さなくても、第0感情を満たすことはできます。第0感情へ向き合うことで、自分自身が自分の理解者になってあげることは可能ですから、自分の気持ちを最優先にしてください。 ――池田さんは、元AC(アダルト・チルドレン)と名乗っていらっしゃいますが、克服したのでしょうか? 私がACの自覚を持ったのは25歳の頃です。きっかけは契約社員として働いていた会社の経営が傾いて解雇になったとき。今後の自分の生き方を考える必要性が出てきて、何をどうしたいか全然わからず、それまで自分の軸で生きてこなかったことに気づきました。 母はシングルマザーで、精神病を患っていました。母の顔色をうかがい、望むことをし、苦労をかけてはいけないと、母基準で生きてきたので、「自分」というものが皆無でした。 でも今はもう自分はACではないと思っています。克服の過程としては、徹底的に自分の望むこと、つまり第0感情に向きあう中で、自分を責める気持ちも、反発心も、好奇心も全てを掘り下げ、自分を満たすことを徹底しました。生きづらさはなくなり、自分で自分のことを素晴らしいとも思えるようになりました。 最後に出てきた心理ブロックが、カウンセラー活動を広めていきたいときに「SNS発信をして注目を浴びるのが怖い」というものでした。母が過干渉でもあったので、母の意識がこちらに向くと、母に尽くさなければならない、母の期待に応えなければならないというスイッチが入ることに気づきました。つまり「人から注目を浴びると、不自由になるのでは」という考えを持っている自分がいたのです。 そこで第0感情と向き合い「人から注目されれば、集客ができて、私は自由になれる」と自分に投げかけました。そこでACの自分との向き合いはやりきった感覚があって、それ以降は、AC特有の苦しさは感じなくなりました。 克服して以降は、私の中にいる子どもの頃の私は、成長して私を超えたような感覚です。もう子どもの頃の私はメソメソ泣いてはいなくて、私をフォローするような言動しかしないので、私の中のACの問題はもう終わったと、克服できたと捉えています。 【プロフィール】 池田由芽(いけだ・ゆめ) 心理カウンセラー。 専門学校卒業後、出版社・広告代理店・講師と、さまざまな職を転々とする中で、あるとき、自らが生きづらさを抱えたアダルトチルドレン(AC)であると認識する。 その後、ACを克服する中で、第0感情の存在に気づき、「悩みを解消するにはコレしかない!」と心理学を本格的に学び、カウンセラーに転身。 Instagram『アダルトチルドレン克服の教科書』のフォロワー数は9万人、AC系アカウントで日本一となる。 インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ